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アラビアンナイト 川崎 / ソープ

8:30~翌0:00

当日予約8:00~

神奈川県川崎市川崎区堀之内町13-8

JR川崎駅/京急川崎駅 ※送迎車ご用意致しております。

入浴料 11022,000円~

利用可能カード:VISA、MASTER

044-233-4152

※お電話の際に「ビンビンで見た」とお伝えください

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アカリの写メ動画一覧

アカリ(21)

アカリ(21)

T164 B88(E) W56 H87

本日出勤 11:00〜翌00:00

  • 投稿日時

    ジューダス・クライスト【第三十六話】

    ?

    お題:異世界転生・歴史探訪

    嘘つき同士の友情・最期の晩餐

    希望と空虚・臆病者

    据え膳食わぬは男の恥

    正解と正しいは違う

    ?

    「なんだ。全然抜けるじゃないか。

    絵守君。君ねぇ

    いくらトニーと触れあってたいからって

    三文芝居はよくないよ。

    チェキ会だったら剥がされて出禁だよ」

    「いえ、絵守画伯は本気でした。

    あなたがおかしいのです筆山」

    絵守は画伯呼びなのに

    自分は呼び捨てにされたことに

    憤慨した筆山はしかし

    レオニダスがヘラクレスの血を引いている

    云々の話を思い出した。

    見ると絵守は

    推しのソロイベ抽選会に外れた人。

    みたいに愕然として項垂れている。

    「おのれアギアス家。

    我がエウリュポン家の恨み

    末代まで忘れるな」

    「肩を落とさないで下さい。

    そんなあなたにはこれをプレゼント」

    トニーはそう言って

    打ち上げ花火を取り出した。

    「トニオ・サルバドール・

    マクダニエル・ゴンザレス画伯。

    一体どうしてこんなものを?」

    「こないだ縁日で買った土産物です。

    片が付いて景気付けに打ち上げれば

    達成感も倍増です」

    「どこの縁日だよ。

    それよりこの剣、なんか変な造りだな」

    引き抜く時には気が付かなかったが

    剣の柄にはトリガーのようなものがあった。

    そこへ怒気を孕んだペルシア兵たちが

    丁度良く突撃してきた。

    筆山は早速そのトリガーを引いてみた。

    きっとこれで刀身が

    赫い刃になって攻撃力上昇。

    上弦の鬼の再生も防げる。

    私は息の呼吸くらいしか使えないが。

    なんてことを夢想していると

    利き手に激しい反動。

    見れば剣先が食虫植物のように開いている。

    そこから何発もの鉄塊が

    ペルシア兵に襲い掛かり

    鎧ごとぶち抜いてミンチにしていた。

    知っている。

    私はこの武器を嫌という程知っている。

    あの時、こいつのせいで私は

    塹壕などを掘らなければならなかったのだ。

    「おい何が魔剣だよ。

    こりゃ直剣の形をした

    マシンガンじゃないか」

    「ですからガンモドキ(銃もどき)

    と言っているでしょう。

    あなた達が戦うのは

    悪魔じゃありませんから。

    人間相手ならこれが一番効果的です。

    あなたがこの魔剣に選ばれたのは

    その恐ろしさを身をもって

    知っていたからこそです。

    別に血筋とかそういうのは

    今回全然関係ありません」

    絵守は何のことだかわからず

    話についていけなかったが

    とりあえずエウリュポン家が

    アギアス家を呪う理由が

    無くなったことだけは何となく理解できた。

    「うるさい。

    そもそもこんなもん剣でも刀でもないって。

    ただの銃小火器だって」

    「細かいことはいいっこなしです。

    私は今から

    サタンと決着をつけなければなりません」

    「そういえば何でお前

    そんな風な感じになっちゃったの?」

    「私は黄泉路の果てで

    デビルハンターとして転生しました。

    今の私の生業は

    片っ端から悪魔を狩ることです」

    「なんか既視感のある肩書と見た目だけど

    まあいいや。

    もとい、サタンを追って

    此処に来たとか言ってなかったか?」

    「はい。

    私とヤツは遥か遠い時空で戦っていました。

    しかしヤツは突然、何かに呼ばれたように

    急に別の次元へと転移しました。

    おかげで私もその後を追って

    こんな大昔まで来る羽目になりました。

    もう面倒くさいんで今度こそ逃がしません。

    あなたたちは勝手に

    あなたたちの戦争をやっていてください。

    私とサタンのことはお気になさらず。

    それではアイルビーバック」

    そう言うとトニーは筆山たちの前から

    一瞬で姿を消した。

    ?

    サタンは地形も生物も関係なしに

    ただ大地を蹂躙しながら進んでいた。

    もはや筆山たちが陣取る隘路まで

    残り十歩足らず。

    その時、突如として目の前の空間が割れ

    同時に無数の銀の塊が

    サタンの眉間に叩き込まれた。

    「ウィンチェスター大聖堂の

    銀十字を鋳溶かして造った

    十三ミリ爆裂徹甲弾です。

    こいつを喰らって平気な悪魔はいませんよ。

    とはいえ

    ウィンチェスター大聖堂が建造されるのは

    今から千五百年も後のことですがね」

    トニーの愛用二丁拳銃

    パンプキン&ハニーバニーの集中砲火に

    サタンはたまらず膝をついて呻いた。

    が、間を置かず

    六枚の翼を羽ばたかせて飛翔。

    その風圧に辺りで乱気流が巻き起こる。

    天の光を遮るが如く

    地を見下ろして中空に鎮座したサタンは

    そのまま下界へ向けて

    口から黒い魔炎を吐いた。

    魔炎は地表を覆い尽くし

    これに呑み込まれたあらゆる有機物は

    たちまちにして腐れ落ちた。

    辺りを埋め尽くしていたペルシア兵たちも

    大量の骨となって頽れた。

    トニーは背中の大剣バッサニオンを抜き放ち

    高速回転させて旋風の盾を創り

    これを防いでいた。

    更には怯むどころか

    そのまま上昇しながら

    サタンとの距離を詰めていく。

    「これでは決着までに

    この地が朽ち果ててしまいますね。

    場所を移しましょう。

    二度と逃れることのできない

    私の固有結界に特別招待して差し上げます。

    アスタラビスタベイビ」

    トニーの大剣が大気を薙いだ。

    すると何もない空間に裂け目が生じた。

    そこから暗黒が覗いた。

    その暗黒は、途轍もない引力で

    中空のサタンとトニーを

    あっという間に吸い込んだ。

    吸い込んだと同時に閉じた。

    空間は何もなかったかのように塞がり

    後には馬鹿みたいな青空が

    当たり前に広がっていた。

    ?

    ?アカリ?

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  • 投稿日時

    ジューダス・クライスト【第三十五話】

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    お題:異世界転生・歴史探訪

    嘘つき同士の友情・最期の晩餐

    希望と空虚・臆病者

    据え膳食わぬは男の恥

    正解と正しいは違う

    ?

    その瞬間

    絵守の頭の僅か上辺りの空間に突然

    ガラスを殴ったようなヒビが入った。

    次の瞬間、そのヒビを突き破って

    何かが飛び出してきた。

    空の景色が、割れたガラスのように

    粉々になって四方に飛び散った。

    彼方から飛び出してきた塊は

    筆山の前に立っていた。

    胸元が大きく開いた黒シャツ。

    その下のしなやかに鍛え上げられた筋肉。

    黒皮のパンツにブーツ。

    背に大剣を携えて

    両手には拳銃を構えている。

    膝下まである赤いレザーコートに

    身を包んだその男の顔は

    かつての筆山と同じ顔をしていた。

    「筆山君。彼はどうも

    今生の君の顔にそっくりだがね。

    知り合いかい?」

    絵守にそう問われて

    筆山の脳髄に電流が走った。

    彼は全てを思い出した。

    そう、あの時の全てを。

    「お前!トニー!トニーだろう!

    このドイツ軍の裏切り者め!

    あのクリスマスの塹壕で

    くたばってなかったのか!」

    トニーはムッっとした表情で筆山を睨むと

    以前より少し流暢な口調で話し出した。

    「サタンを追って来てみれば

    嫌なヤツに会いました。

    当時の私は憑依体質。

    人の夢に魂を憑依することができました。

    しかし、私の憑依力は微弱なものだったので

    憑依したところで

    身体の主導権は当人のまま。

    私はただ魂として見ているだけ。

    筆山さん。私は確かに

    あなたの夢にあの時憑依していました。

    しかし先にも言ったように

    私の憑依力は弱く

    魂の半分も移すことができません。

    大体、四分の一程度でしょうか。

    それだって、あなたが夢の中で死 ねば

    私の寿命は四分の一が

    とこ失われることになります。

    私はあなたの他に

    波佐間という男にも憑依していました。

    彼も最終的には撃ち殺されてしまいました。

    私の寿命はこれで残すところ僅か半分。

    もう半分の寿命は

    本物の私の魂にありました。

    その行方は、あの時の私にも

    わかりませんでした。

    ところが

    残った私の魂はあなたの中にいた。

    本物の私の魂は、フランス軍を抜け

    フラフラしているうちに

    ドイツ人に間違えられて前線に加えられ

    わけもわからず戦っていたのです。

    それをあなたはいきなり殴り倒した。

    おかげで私の寿命はカラッキシ。

    これはあの時のお返しです。

    謹んで受け取ってお納めくださりやがれ」

    トニーの姿が筆山の視界から消えた。

    と、思った瞬間

    筆山は遥か後方に

    十数メートルも吹っ飛んで転がっていた。

    「ま、待て。暴力はいけない。

    そもそも君が隊を脱走なんてしたから

    僕があんな目に会ったんじゃないか」

    筆山は夥しい量の鼻血を

    地面にぶちまけながら

    膝をついて情けなく抗議した。

    ?

    「どの口が言いますか。

    まあ、過ぎたことはもうどうでも良いです。

    不幸中の幸いにして

    絵も入賞したことですし」

    「絵ってなんだい?

    あの、僕らが夜道で殴り合いをしている

    粗野な絵かい」

    「え?ではあなたは、あの絵の作者?

    非業の死を遂げた天才画家

    トニオ・サルバドール・

    マクダニエル・ゴンザレスさんですか?」

    絵のことを聞いていた絵守が

    握手会で推しと初対面中。

    みたいなキラキラした瞳をトニーに向けた。

    「トニー。

    君、そんなめんどくさい本名を

    背負っていたのか」

    筆山は既にトニーの本名を

    出鱈目なダウナー交わしつつ

    忘却の空へと屠っていた。

    「そういうあなたは、絵守画伯ですか。

    あなたの絵も実に素晴らしかったですね。

    個人の多面性と

    それに付随する幾重もの可能性が

    あのシンプルな佇まい一つに

    集約されていました。

    あれは生中な観察眼で

    為し得る技ではありません」

    トニーの賛辞を受けた絵守は

    ライブ中の推しに過剰なレスを貰った人。

    のような感じで恍惚としている。

    「お近づきの印に

    この剣を差し上げましょう」

    トニーは何もない空間から

    直剣のような形状の武器を取り出し

    絵守の前に突き立てた。

    「黄泉から持ち帰った魔剣ガンモドキです。

    それを使えば

    あの軍勢相手でも何とか戦えるでしょう」

    「なんと。

    トニオ・サルバドール・

    マクダニエル・ゴンザレス画伯から

    直々に美術品を贈呈していただけるなんて」

    「絵守君。美術品じゃなくて武器だろう。

    しかし今の僕たちにとっては渡りに船だな。

    まさに僥倖じゃないか」

    筆山はフラつく足取りで絵守に近付き

    剣を取るようその背を押した。

    絵守が地面に突き刺さった

    直剣に手をかける。

    ビクともしなかった。

    「トニオ・サルバドール・

    マクダニエル・ゴンザレス画伯。

    なんですかこの剣。

    スパルタの膂力を以てしても抜けないとは

    あれですか。

    アーサー王伝説的なヤツですか」

    「そういえば

    考えたこともありませんでした。

    魔剣や聖剣には

    選ばれたものにしか抜けないという

    解放条件があるらしいですね」

    トニーがうっかりしていました。

    という風に頭を掻いた。

    その時、大きな地鳴りがした。

    ペルシア軍の方からだ。

    見るとサタンが

    移動宮殿から動き始めていた。

    一歩ごとにペルシア兵を巻き添えにし

    曠野に赤い花を咲かせながら前進している。

    「ちょっと待った。

    イチャイチャしてる場合じゃないぞ。

    絵守君。魔剣だか駄犬だか知らないが

    命が惜しければ早く抜きたまえ」

    筆山はそう言うと

    絵守の手の隙間から直剣の柄を掴んだ。

    剣は、いとも呆気なくヌルンと抜けた。

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  • 投稿日時

    ジューダス・クライスト【第三十四話】

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    お題:異世界転生・歴史探訪

    嘘つき同士の友情・最期の晩餐

    希望と空虚・臆病者

    据え膳食わぬは男の恥

    正解と正しいは違う

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    ペルシア王、クセルクセスは憤慨していた。

    もはや憤死直前という様相だった。

    「一体何なんだ!

    もはや我の親族は全て打ち滅ぼされ

    不死隊も全滅!

    我が陸軍本隊は壊滅的状況だ!

    貴様ら!たった三百の雑兵相手に!

    あああああ!」

    「王。お鎮まり下さい。

    もはや撤退しか道はありません」

    一人の側近が進み出た。

    次の瞬間、側近の胸に刃が突き立てられた。

    「黙れ!貴様!

    あのスパルタのレオニダスだけは!

    殺しても殺したりぬ!

    撤退だと?ならばヤツの首を持ってこい!」

    クセルクセスは乱心していた。

    完全にござっていた。無理もない事である。

    筆山の前代未聞に傍若無人な

    悪鬼羅刹の如き罵詈雑言を

    数日間に渡って又聞きし続けた結果

    彼の精神は取り返しのつかない

    深淵にまで落ち込んでしまったのだ。

    「王よ。お鎮まり下さい。

    我々に呪術のお許しを下さいませんか」

    一人の

    ローブで顔まで隠した怪しげな初老の男が

    腰を曲げてクセルクセスに近付いた。

    「何だ貴様は!貴様はアレだな!

    ヤバい邪教徒の!誰だ!

    こんな奴らを連れてきたのは!」

    「は。私です。

    怖れながら、窮地の役に立つかと思い。

    出過ぎた真似を致しました」

    一人の近衛が

    剣を突き立てられる覚悟で名乗り出た。

    傍らには、先程の側近が

    血だまりを作って事切れている。

    「なんだと!

    いくら我がペルシアが宗教に寛容だとて!

    こやつらは危険過ぎると!

    あれほど禁じたはずであろうが!」

    「は。こやつらの邪なるは否めません。

    しかしこやつらの魔術は本物です。

    何卒、一度試してみて頂きたく」

    近衛の男は

    その魔術を目にしたことがあった。

    それは紛れもない邪悪であった。

    しかし、その怖ろしさは本物であった。

    近衛の男は、魔術を怖れた。

    怖れるが故に、どうしてももう一度

    その恐怖を

    己が目で確かめてみたくなった。

    そして近衛の男は

    筆山の言葉を更に悪辣に

    さらに辛辣にして盛りに盛った。

    何のためか。今、この時のためである。

    クセルクセスを狂わせ、前後不覚にし

    魔術の許可を得るために。

    男は王をその欲望の犠牲に捧げた。

    「いいいいい!良いだろう!

    貴様ら邪教徒が!

    レオニダスの首級をあげられたなら!

    貴様らを正教として認めてくれるわ!」

    クセルクセスは、怒りの余り

    痙攣が治まらない

    脳髄の赴くままに命令を下した。

    王の中の王は、もはや人格を放棄して

    荒れ狂うノルアドレナリンの

    奴隷と化していた。

    「ありがたき幸せ。では仰せのままに」

    邪教の男は、そう言うと

    霧のように移動宮殿から姿を消した。

    王から奴隷へと堕ちたクセルクセスは

    定まらない視点を暴れさせて

    その姿を探した。

    網膜の片隅に、先程の男と同様に

    ローブを纏った邪教の者たち数人が

    円を描いて

    儀式的な動きをしているのが映った。

    「弾薬が尽きましたが、 いかがしたものかね」

    筆山が少し困惑気味に絵守に問いかけた。

    「まさかこれだけ削っても

    撤退の気配を見せないとは。

    クセルクセスは乱心したか。

    しかし難しい局面だな」

    絵守は何かを警戒して考え込んでいる。

    「一体、何が難しいと言うのかね。絵守君。

    敵はもう削られ過ぎてベラベラだよ。

    こっちはまだまだ元気一杯の三百だよ。

    いや、二百か。

    弾薬部隊にペルシャ兵の装備を着せて

    弓兵として後方支援

    してもらったらどうかな」

    「死人を引剥ぐのに何の躊躇もないとは

    随分立派なスパルタになったもんだね

    筆山君。

    しかし、敵はまだ八万。

    こっちが三百だとしても

    一人当たり二百五十以上は

    倒さなきゃならない計算だ」

    「相手は指揮系統もグシャグチャだし

    何より士気がベロンベロンだから

    何とかなるってば。

    やってみなきゃわかんないじゃん。

    それに、クセルクセスが撤退しない今が

    ヤツの首を取る好機だよ」

    「それはどうかな。

    撤退しないには撤退しないなりの

    理由があると考えるのが自然だが。

    何か特殊な部隊でも温存しているとか」

    筆山と絵守がそんな問答を繰り返していると

    遥か彼方の移動宮殿の上空に

    渦を巻いていた黒雲が怪しく光った。

    それは、黒い光だった。

    漆黒の稲光が轟き

    無数の刃となって曇天を切り刻んだ。

    やがて、その裂け目を突き破るようにして

    巨大な灰色の柱が顕れた。

    果たしてそれは、骨であった。

    一体どれだけの大きさなのか

    目測もつかない、規格外の足の骨。

    それに黒雲が纏わりつき、固まり

    闇色の肉となって、骨を覆った。

    次いで骨盤、脊椎、肋骨、腕、頭。

    骨は裂け目から次々と躍り出た。

    黒雲がそれらの肉となり

    やがてそれらは一つの

    大いなる邪悪を顕現した。

    六つの羽に六つの角。

    三つの顔の正面にユダを咥えた魔王。

    サタンが

    移動宮殿を跨いで大地を踏んでいた。

    「時空を超えて来てみれば

    我を呼びしは貴様らか」

    サタンは邪教徒たちに目を向けた。

    邪教徒たちは、サタンが大地に立った時に

    運悪く丁度その足裏の位置にいたため

    その場に真っ赤な花を咲かせていた。

    「絵守君。

    あいつ、埋まってた下半身引き摺り出したら

    あんなにでかかったんだね。

    森ビルよりでかいよ。

    そして僕たちには今

    ヤツの凍て付く波動に対抗するための炎が

    一欠けらもない。どうしようかね」

    「筆山君。これはちょっと

    想定の範囲外どころじゃない。

    君、また奇跡で巨大ロボとか出せないかい」

    「無茶を言うんじゃない。

    今の僕は神の血を引けど、神に非ず。

    奇跡を怒らせて寄る辺のない

    ただのフィジカルの塊さ」

    「あれは筋肉でどうこうなる次元じゃない。

    しかし何故サタンが此処に?

    僕らを追って来たのか?」

    絵守が蒼ざめた顔でそう呟いた。

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    ジューダス・クライスト【第三十三話】

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    お題:異世界転生・歴史探訪

    嘘つき同士の友情・最期の晩餐

    希望と空虚・臆病者

    据え膳食わぬは男の恥

    正解と正しいは違う

    ?

    「炎は人心を狂わせると言うが。筆山君。

    これ以上憑りつかれないでくれよ。

    僕は今生に戻って、君が放火魔に

    転職しやしないか心配になってきた」

    絵守が茶々を入れる。

    人が気持ちよく焼肉している最中に

    なんたる無粋か。筆山は抗議した。

    「絵守君。

    君はユダをコキュートスから救うんだろう?

    それには、あの絶望の氷を炎で溶かして

    希望に変えなきゃいけない。

    僕の心は今、燃えている。

    その証拠にどうだ。

    絶望的な兵力を燃やしたら

    見事に希望の道が開けたじゃないか」

    「希望の道というか、焼死体の群れだがね。

    それにこの匂い。

    氷結地獄の次は炎熱地獄かい。

    縁起でもない」

    絵守は鼻を摘まんで顔を顰めている。

    芸術家の端くれの癖に

    この芸術的火計に心打たれないとは。

    嘆かわしいことである。

    筆山は肩を竦めて言った。

    「あのさぁ。

    君も少しは心を燃やしたらどうなんだい。

    火炎瓶二十五本に火炎壺四個。

    それに煙材一つで

    隘路に入ってきたペルシア軍を

    全滅させたんだよ」

    絵守はしかし

    真剣な顔で敵兵を見渡して考え込んでいる。

    「見た感じ、倒せたのは五百ってところか。

    さっきのコンボが使えるのは後百九十九回。

    つまり弾薬が尽きるまで戦って削れる人数は

    上手くいったとして十万、ということだな」

    「いや、もっと引き付ければ

    ワンコンボで千人も夢じゃないぞ」

    「向こうも馬鹿じゃない。

    今のでこちらの戦術を警戒してくるはずだ。

    それでも、僕たちは何とか

    ペルシアを誘きよせて

    殲滅を繰り返さなきゃならない」

    「十万も削れば流石に

    突っ込んでも大丈夫なんじゃない?

    向こうの士気もガタ落ちだろうし」

    「そこまで削られれば

    クセルクセスは撤退するか

    又は秘密兵器でも出してくるか、だろうな」

    「秘密兵器は置いといて

    撤退されたら困るんですけど」

    「そこまで削って撤退させたなら

    サラミスの海戦も起こらない可能性が高い。

    君の広げた大風呂敷には少し届かないがね。

    しかしそれを考えるのは

    十万を削った後のことだ」

    「その、警戒してる敵兵相手に

    なんとか後百九十九回

    同じコンボを決めるにはって話ですよね」

    「嗚呼。やってのける道は一つ。

    君の挑発で敵を怒らせ

    誘きよせ続けること。

    ここから先は

    君お得意の舌先三寸にかかっている

    と言っても過言じゃないよ」

    「そうですか。まあやってみますがね。

    神様は依怙贔屓のないお方に違いない。

    僕の器をお猪口にした代わりに

    持って生まれた悪魔根性だけは

    サタンよりも大きく

    お創りなすったんだから」

    筆山は

    天使のような悪魔の笑顔でそう嘯いた。

    ?

    それからの筆山は、偉かった。

    彼は彼の中の悪心に

    イースト菌をぶち込んで心を燃やし

    その熱で己が

    内なる悪魔を膨らませていった。

    気が付くと筆山は

    とてもここに書けないようなスラングを

    連発していた。

    前線のペルシア軍は怒り狂い

    その怒りはクセルクセスに

    尾鰭を付けて伝わり

    ペルシアの王は激怒するままに

    兵に突撃を命じた。

    そして三日が経った。

    筆山たちの前の隘路は

    もはや黒焦げの死体が積み上がって

    バリケードのようになっていた。

    それでもペルシア軍は顔を真っ赤にし

    目を血走らせながら

    仲間の死骸を蹴散らして突進してきた。

    もはや正気ではない。

    何が彼らを

    ここまで狂わせてしまったのだろうか。

    コカインかヘロインかLSDか。

    シャブかアイスか野菜盛りか。

    わからない。もはや私には何もわからない。

    否、わかりたくなかった。

    よもや私の中の悪魔が

    このように人心を畜生道、地獄道

    餓鬼道、バキ童の三悪道プラスワンに

    変えてしまう程に悪辣だったなんて。

    私はどんな麻薬よりも

    己が呪われた舌が恐ろしい。

    果たしてこの舌も、絵守の言うように

    勝利の水で洗えば清められるのだろうか。

    私は無理だと思う。

    否、別にそれでかまわない。

    呪われていようが何だろうが

    この舌こそが私たちに

    勝利の道を切り開いてきたのだ。

    勝利の女神は悪魔の舌によって

    口説き落とされるのだ。

    私は私の全てを受け入れ

    勝利の女神に口づけしよう。

    そして堕天した二人は

    サタンと対峙するのだ。

    その場合、呪われた勝利は

    どちらの味方をするのだろうか。

    わからない。

    私はさっきから

    何を思弁的になっているのか。

    筆山がそんなこんななことを

    考えているうちに

    ついに火炎瓶諸々の弾薬が底を尽いた。

    ペルシアは二十万の大軍団のうち

    実に十二万を失っていた。

    しかして撤退の気配を見せない

    クセルクセスの移動要塞の遥か上に

    怪しげな黒雲が渦を巻いて

    空を呑み込んでいた。

    ?

    ?アカリ?

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    ジューダス・クライスト【第三十二話】

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    お題:異世界転生・歴史探訪

    嘘つき同士の友情・最期の晩餐

    希望と空虚・臆病者

    据え膳食わぬは男の恥

    正解と正しいは違う

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    「上出来じゃないか。

    後はペルシアをどう挑発するかだな。

    史実上、クセルクセスは

    業を煮やして攻勢に出るまで

    四日間動かなかった。

    しかし、今の僕たちには

    そんな時を待つ理由もメリットもない」

    「流石にあんな遠くの移動宮殿まで

    一息で声が届く訳ないからな。

    伝言ゲームだ。

    人伝になる度に、噂は酷くなる」

    筆山は動く気配のない、隘路の先の

    ペルシア兵たちに向かって呼びかけた。

    「やいペルシア。貴様らの王は腑抜けか?

    二十万の軍勢を率いておきながら

    たった三百の我らが怖いのか?

    貴様らの王が

    もし本当に王の中の王であるならば

    今日中にでも我が首を来りて取れ。

    貴様らが腰抜けの集まりだからといって

    我らが腰を落ち着かせる理由にはならない。

    我らはスパルタ。

    戦場の血に飢えたる狼の群れ。

    貴様らの中にもし一人でも勇者があるならば

    槍を持って今すぐ進み出ろ。

    誓って死体にしてやる」

    筆山は持って生まれた悪魔根性をフル稼働し

    昼夜問わず

    ペルシアの前線部隊を罵り続けた。

    そして三日目。

    クセルクセスの耳に

    それが届いたのであろう。

    打って変わって

    ペルシア軍の猛攻撃が始まった。

    敵の部隊が我先にと

    押し合いへし合いしながら

    隘路に入り込んで前進してくる。

    筆山たちの前に

    鈍色の長いペルシア絨毯が敷かれた。

    「後退しろ!」

    筆山は躊躇なく全軍を後退させるた。

    ペルシア軍は

    よほど罵倒が堪えていたのであろう。

    それを見て取るや、目を血走らせて

    騎虎の勢いでグングン迫ってきた。

    「よし!前進!元のラインまで戻れ!」

    スパルタは瞬時に反転。

    元の位置まで進軍を開始した。

    五メートルの長槍の穂先が敵の前進を阻む。

    リーチが違い過ぎる。

    ペルシア兵たちは槍衾の前に

    その動きを止めざるを得なかった。

    流石は後のマケドニア名君

    フィリッポス二世考案の革命武器。

    当然、今のペルシアに

    こんなものの対処法がわかるはずもない。

    「今だ!投擲!」

    筆山の後方から二十五本の火炎瓶が

    一斉に空に飛び出した。

    それらは回転しながら、十数メートル先へ。

    全く同時に、全く同じ距離へ着弾した。

    ペルシア兵たちは頭から油を被り

    それらは衣服を伝って燃え広がり

    ペルシア絨毯が炎に包まれた。

    「追い風だな!煙材を持て!」

    スパルタの前線兵士に

    後ろから有毒煙材の詰まった容器が

    運ばれてくる。

    兵士がそれに着火すると

    忽ち煙がペルシア絨毯より広く広がって

    更にその向こう側まで覆い尽くした。

    炎が、更に燃え広がっていく。

    この煙は五感にダメージを与える。

    更にサービスで油も混ぜてある。

    煙は、絨毯の遥か後方まで広がり

    炎と共に隘路を包み込んでいった。

    火だるまになったペルシア兵たちは

    恐慌状態に陥り、たまらず後退を始める。

    「カタパルト!」

    筆山の掛け声からしばらくおいて

    火炎壺が四つ。

    遥か後方に後退していく

    ペルシア兵に追い打ちをかけた。

    遠方から悲鳴が上がる。

    これと火炎瓶とでは油の量が違う。

    当然、威力も広がりもその数倍。

    隘路を埋め尽くしていたペルシア軍は

    一瞬にして炭化した肉の道になった。

    テルモピュライに、人肉の焼ける

    何とも言えない匂いが漂っている。

    「ハッハッハ!

    僕はかつて焼きたてのパンになりたいと

    願ったことがあったがね!

    やはり僕は焼く方が

    性に合っているようだ!」

    筆山は追い打ちをかけるように

    ペルシア軍に向かって高笑いを響かせた。

    「僕はかつてローマ葡萄パンを

    焼いた神の子だ!

    ペルシア絨毯如きじゃ

    全くまだまだ焼き足りないね!」

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    ジューダス・クライスト【第三十一話】

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    お題:異世界転生・歴史探訪

    嘘つき同士の友情・最期の晩餐

    希望と空虚・臆病者

    据え膳食わぬは男の恥

    正解と正しいは違う
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    そこは、南が山に

    北が海に挟まれた隘路であった。

    東には防壁のような砦があった。

    隘路を抜けて細い川を跨いだ広大な平地に

    ペルシア軍が展開していた。

    展開していたというか

    平地がペルシア兵で埋め尽くされていた。

    何万、何十万

    数えると気が遠くなりそうな程の

    大軍勢だった。

    その遥か遠くに天幕が見える。

    クセルクセス一世の移動宮殿である。

    一方、こちらの隘路には

    犇めくようにしてギリシャ兵たちが

    ぎゅうぎゅうに集っていた。

    その数、約五千。

    この非常事態に、全ポリス国家を総動員して

    たったこれだけである。

    ペルシアに恐れをなして出兵しない国

    下った国などがあったこと。

    この時期に

    オリンピア祭が行われていたこと。

    兵が集まらない原因は一つではなかった。

    が、筆山たちにとって

    そんなことはどうでもよかった。

    何故ならこのギリシャ兵たちこそが

    一番の敵だからだ。

    「かの名将ハンニバル曰く。

    外からの敵は寄せ付けない

    頑健そのものの肉体でも

    内臓疾患に苦しまされることがある」

    絵守が呟いた。

    そう、筆山たちは知っている。

    レオニダス率いる

    スパルタが全滅した最大の要因は

    戦力差ではない。味方の裏切りだ。

    ある一人のギリシャ兵が

    ペルシアに寝返り

    この山の迂回路をクセルクセスに教えた。

    東西からの挟み撃ちになることを怖れた

    ギリシャ兵たちは恐慌状態に陥り撤退。

    残るはレオニダス率いるスパルタ兵三百と

    その勇気にうたれた

    ギリシャ兵七百のみであった。

    その後、スパルタは

    ペルシア軍の陣取る平地まで突撃を繰り返し

    二万もの敵兵を討ち取るも

    レオニダスは道半ばに倒れ

    スパルタ兵たちは王の遺体を渡すまいと

    まさに一騎当千の膂力で獅子奮迅したが

    最期は矢の雨に倒れた。

    自分たちが

    その二の轍を踏むわけにはいかない。

    筆山は声筒を口にあてがい

    ギリシャ兵に向けて言い放った。

    「見よ。ペルシアの大軍勢を。

    だがスパルタに後退はない。

    我々は軍事指揮権を預かっている以上

    任務を放棄するわけにはいかない。

    ここはスパルタが預かった。

    諸君らは己がポリスへ撤退し

    一刻も早く祖国の守備を固めたまえ」

    ギリシャ兵に動揺の波が広がった。

    「言っておくが、これは軍事命令である。

    繰り返すが、軍事指揮権はスパルタにある。

    今すぐ帰り、祖国を守れ」

    下手に刺激して寝返られては困る。

    かといって感化されて残られても困る。

    あくまで自己犠牲的に。

    あくまで軍事命令として。

    筆山は慎重に言葉を選んで繰り返した。

    やがて一軍

    また一軍と戦場から姿を消し始めた。

    そして、日が沈む頃

    テルモピュライの隘路には

    スパルタ兵三百のみが遺されていた。

    「よし。まずは上首尾だ。

    足手纏いは消えた。今宵はもう日が沈む。

    皆、明日に供えろ。ラップバトルは禁止だ。

    日の出と共にスパルタの戦いを始める」

    筆山は三百の精鋭に声筒を響かせた。

    テルモピュライ一日目。

    とても戦争とは言えないような両軍の兵数を

    闇夜が呑み込んでいった。

    ?

    二十五の屈強な

    重装歩兵が並ぶファランクス。

    その厚さは八列。計二百。

    この隘路でペルシアを押し返すには充分だ。

    そして、その後方に

    二十五の火炎瓶投擲部隊。二列。

    後列が前列にバケツリレー方式で火炎瓶を手渡す構えだ。

    更にその後方。カタパルト四基。

    それぞれに操作、装填

    整備係として六づつ配置。

    一の予備を加えて、計二十五で運転する。

    そして最後尾に、補給部隊二十五。

    火炎瓶や火炎壺、有毒煙材を

    予備で隙間から補充する役割。

    これがスパルタ総勢三百の陣形であった。

    「やはりこの狭い道じゃ

    二十五が限界だったな」

    筆山はファランクスの最後尾にいた。

    隣には絵守が並んでいる。

    「僕が昔に旅行で

    ここを見たことがあって良かったな。

    これ以上の人数じゃ

    移動や補給の隙間もなかった。

    それじゃあ、始めてくれたまえ。筆山君」

    絵守はぐるりを見渡して

    筆山に号令を促した。

    筆山は、声筒を口にあて

    兵士たちに叫んだ。

    「同氏諸君。我がスパルタは

    テミストクレスに

    時間稼ぎとして使われている。

    ヤツは今、アルテミシオンの海の隘路にいる。

    ここで我々を粘らせている間に

    ヤツはギリシャ艦隊の隊列を整え

    敵艦隊を分析し、万全の状態で南下して

    アテネ近くのサラミスの海域で

    海戦の決着を付ける気だ。

    もしここが落ちれば

    ヤツはすぐにでも

    サラミスまで下がるだろう。

    そうなればどうなるか?

    アテネは南下した

    ペルシア陸軍の前に陥落する。

    しかし、それもヤツの策の内だ。

    実はアテネの市民は、もうとっくに

    サラミスやトロイゼンに避難し終えている。

    つまりヤツは

    自国を安全圏に置いておきながら

    我々のことを全滅させる前提で

    決戦を計画している。

    そんなんでいいんですか?

    そんなこと許せますか?

    ダメだ。許せない。

    じゃあどうするか?簡単だ。

    目の前の敵を

    ヤツの計画ごとすり潰してやればいい。

    ペルシアにもアテネにも

    揃って一泡吹かせてやろうじゃないか。

    確かにテミストクレスが

    ペルシア艦隊を打ち破れば

    補給線を絶たれたペルシア陸軍は

    撤退するしかなくなる。

    しかし、もしここで我々が

    あの二十万の軍勢の大半を打ち倒し

    ペルシア王クセルクセスの

    移動宮殿まで押し通り

    その首逃さず討ち取れば

    この戦争は

    テミストクレスがサラミスまで

    下がることもなく終わる。

    諸君。

    目の前の二十万こそが、ペルシアの本体だ。

    我々は撤退しない。

    そして敵の撤退も許さない。

    必ずここで滅ぼす。早々に決着を付けよう。

    我々がテルモピュライを

    決戦の地に変えてやろうじゃないか」

    一斉に槍が天に翳される。

    鬨の声が上がる。

    舞台は、完璧に整った。

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    ジューダス・クライスト【第三十話】

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    お題:異世界転生・歴史探訪

    嘘つき同士の友情・最期の晩餐

    希望と空虚・臆病者

    据え膳食わぬは男の恥

    正解と正しいは違う

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    カルネイア祭の最中、農奴ヘイロータイや

    周辺民ペリオイコイたちは忙しかった。

    祭りの裏で、ヘイロータイは

    大量のオリーブ油や動物脂をかき集め

    ペリオイコイの職人たちは

    陶器やガラス瓶を拵えまくった。

    硫黄や松脂、怪しげな草木を集めて

    容器に密閉したもの

    槍を二つ繋ぎ併せて長くしたもの

    などが大量に生産され

    大型の投石機・カタパルトと共に

    街の倉庫に並べられていた。

    祭りでは

    選ばれた精鋭三百のうちの五十が

    ガラス瓶を投げて飛距離を競ったり

    また別の二十五が、カタパルトを使って

    狙った場所に壺を落としたり

    更にまた別の二十五が

    風を読んで特定の方向へ煙を流したりと

    斬新な余興を催して点数を競っていた。

    残りの二百はひたすら

    長槍を使用した密集形態

    ファランクスの練習をしていた。

    筆山はその合間に

    一メートルくらいの大型の声筒を使って

    声が何処まで届くのかの実験に興じていた。

    ?

    そして一週間が経った。

    老人たちに約束した、出兵の日である。

    筆山が家を出ようとすると

    妻のゴルゴが泣いている。

    あの、同じ名前のスナイパーと

    比較して劣らない逞しい身体の女が

    涙を流している。

    「心配するな。一週間程度で戻る。

    まだ再婚など考えるなよ。

    吉報が届いたら、宴の準備をしておけ」

    筆山はそう言って、六尺近くある妻の頭を

    その遥か上からポンポンと叩いた。

    老人たちは

    揃いも揃って心配そうな顔をしている。

    「本当に、これで大丈夫なんでしょうか?

    王が二人倒れるということだけは

    万が一にも、何卒、まあ、そのぉ」

    おずおずと一人の老人が聞いてきた。

    「わからん。

    わからんが、やれるだけのことは

    この一週間で全てやった。

    準備も訓練も万全だ。

    後はやってみることだ」

    広場に出ると

    スパルタ市民たちが見送りに出ている。

    筆山は声筒を使って、群衆に宣言した。

    「スパルタに後退はない。

    だが今回は、その鉄則に

    もう一つ付け足す必要がある。

    スパルタには前進あるのみ。

    私は必ず勝って帰る。忘れるな。

    スパルタは必ず勝つ」

    群衆がどよめいた。

    そのどよめきは

    筆山にとって不快なものであった。

    「なんだこいつら。

    王様、絶対死ぬけどしょうがないよね。

    みたいな感じで送り出しに来たのか。

    不敬罪で全員処刑にしようかな」

    筆山が隣の絵守に愚痴った。

    「まあ、あれが普通の反応だろうよ。

    まさか三百でどうにかできると思うヤツも

    いないだろう」

    絵守はいつもの調子でスカしている。

    対して、筆山は尚のこと納得がいかない。

    「そんなこと言ったって

    負けたら王様を両方とも失うんだぞ」

    「スパルタの体制なら

    王は死んでも国は死なないからな。

    それに、アギアス家にもエウリュポン家にも

    世継ぎが既にいる状態だ」

    「なんだよ。

    僕たちが死んでも変わりはいるってのか。

    ウーバーイーツじゃないんだぞ」

    「さあ。もしかしたら割り箸くらいかもな」

    「やめろよ。なんだか

    蕎麦でも食いたい気分になってきた」

    ?

    筆山たちは軽口を叩きながら

    スパルタを後にした。三百。

    うち二百は長槍を携えて武装し

    筆山は大型声筒も携帯している。

    残りの百は軽装で

    カタパルト四基

    火炎瓶五千本、火炎壺八百個

    有毒煙材二百個を

    荷車に積んでラバに引かせたり

    袋に背負ったりして運んでいる。

    筆山たちにとっては

    ぶっちゃけこの行き道が一番きつかった。

    荷は重いし、ラバの世話は面倒だし

    道は険しいし、何より遠いし。

    何か気晴らしにでもと

    筆山は声筒でスパルタ兵に

    今生の祖国の歌謡曲を

    歌い教えながら進んで行った。

    絵守はラップを教えていった。

    立ち寄った宿では兵士たちが

    ラップバトルで盛り上がり過ぎて

    決闘沙汰になりかけた。

    なんでも相手が悪口ばかりで喋ってるだけ。

    ライムもフローも感じない。

    お前にはHIPHOPが足りてない云々。

    その場は絵守が

    巧みなフリースタイルを披露して収めたが

    やはり妄りに異文化を撒き散らすのは

    転生者として良くない振る舞い

    なのかも知れない。

    筆山はそんなことを思いながら

    気が付けばみんなでキューティーハニーや

    ムーンライト伝説を口遊んでいた。

    ポップスを歌うと足取りが軽くなり

    演歌を歌うと重くなった。

    あまりにも行軍速度が落ちるので

    水戸黄門は歌うことを禁止した。

    ラバが不貞腐れて動かなくなるので

    ドナドナも禁止した。
    そして、スパルタを経ってから二週間弱。

    筆山たちは

    アンパンマンのマーチを熱唱しながら

    ついにテルモピュライに到着した。

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    ジューダス・クライスト【第二十九話】

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    お題:異世界転生・歴史探訪

    嘘つき同士の友情・最期の晩餐

    希望と空虚・臆病者

    据え膳食わぬは男の恥

    正解と正しいは違う

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    絵守は筆山の襟首を掴んで立ち上がらせた。

    チュニックが外套ごと上擦ってはだけ

    筆山の陰茎が丸出しになった。

    そんな筆山の下半身事情をシカトして

    絵守は一気呵成に話し出した。

    「筆山君。前にも言ったが、僕は今まで

    その結果を踏みにじってきた英雄たちを

    今更に裏切るわけにはいかない。

    とうに僕たちの手は

    英雄の履歴を汚した罪で染まっている。

    その罪は

    勝利という水でなければ清められない。

    だから僕は何としてでも

    この手に勝利を齎す。

    そうでなければ僕は

    ユダをも裏切り、彼を

    本物の裏切り者にしてしまうことになる。

    僕はユダを裏切らない。

    裏切り者にもしない。

    僕は必ず彼をジュデッカから救い上げる。

    そして、その汚れた名を

    サタンに改めさせてやる」

    絵守に襟首を掴まれながら

    筆山の身体は

    若干持ち上げられて浮いていた。

    片腕で、百キロは超えているであろう

    巨躯のレオニダスを持ち上げるとは

    何という凄まじい膂力。

    これがスパルタか。

    中空で陰茎が風に靡いて揺れている。

    その変な解放感を感じながら

    筆山はそんなことを考えていた。

    ?

    「君は、戦いたくないんだろう?

    ならばそれでよし。

    史実で君、レオニダスは

    『死によって完成された英雄』となる。

    一方で僕、レオキュキデスはどうか。

    後に汚職して失脚・亡命さ。

    言うなれば彼は

    『生きることで汚れる王』だ。

    皮肉な対比だね。

    君、レオニダスの光が強い分

    僕、レオキュキデスの陰は濃くなる一方だ。

    だから僕は彼を英雄にして

    その悪名を雪いでみせる。

    君が逃げるというならば

    願ったり叶ったりだ。

    僕としても、君に手柄を

    取られるわけにはいかないからね。

    そしてレオニダスには

    きっと腰抜けの烙印が押されることだろう。

    それも、僕には関係のない話だ。

    いや、むしろそれも僥倖というべきか。

    君の行動によって

    レオニダスとレオキュキデスの光陰は

    逆転するんだからね」

    絵守の言葉は、筆山の心の空に轟き

    曇天に蟠っていた黒雲を引き裂いた。

    その裂け目から、眩い光刃の煌めきと共に

    小さなお猪口が落ちてきた。

    お猪口は希望の海に落ちて

    どんぶらこどんぶらこと

    宛もなく漂い始めた。

    曇天はその裂け目を広げて

    瞬く間に晴天となり

    希望の海に宝石のような輝きをばら撒いた。

    筆山の心はその輝きを

    静かに表面から吸い込んで

    ゆっくりと鼓動を鳴らし始めた。

    コキュートスでいつの間にか

    凍り付いていた心臓が

    体温を取り戻したかのようだった。

    全身を巡る血潮に熱を感じる。

    希望の海のあちこちで

    温泉が喇叭を吹くように湧出し

    その衝撃の波に乗って

    お猪口がゆらゆらと揺曳する。

    何かが心の中で高揚し

    昂っていくのを感じる。

    私は、また逃げるつもりだったのか。

    何が死にたくない、だ。

    そんなことは墓に入ってから考えればいい。

    生きているうちは戦う。

    やってみなくちゃわからないから戦うのだ。

    それは一対一だろうが百対一だろうが

    勝ち戦だろうが負け戦だろうが関係ない。

    そもそも、私は命運も万策も尽きて

    絶望という行き止まりに

    ぶち当たったおかげで

    漸く進み出した小さなお猪口だ。

    知らないと知りたいがニコイチのズッ友なら

    絶望と希望はライバルで共犯者だ。

    私の希望の海は、絶望という氷が

    溶けてできたものなのかもしれない。

    そして、地獄の底には

    それが固まったまま動かない場所があった。

    私は知らぬ間にあそこで

    また血肉ごと固まってしまっていたのか。

    否。そんなことはどうでもいい。

    原因を過去に求めて何になる。

    私は今を進む。

    前も後ろも知ったことではない。

    そんなものは

    辿り着いてみなければわからない。

    漕ぎ出す前に躊躇する馬鹿があるか。

    そんな暇があるか。

    私には常にも、今にも

    目の前にやることがあるんじゃないか。

    ?

    「勘違いするなよ、絵守。

    僕はこの爺どもが勘に触ったから

    ちょっと困らせて遊んでいただけだ。

    誰が君だけを行かせたりするものかよ」

    筆山は絵守の腕を両の手で掴むと

    そのまま引き下ろした。

    丸出しになっていた陰茎が

    やっと衣服の中に納まって

    風に翻弄される儘のゆらめきに

    終わりを告げた。

    代わりに絵守が風を切って宙に舞った。

    筆山が着地と同時に

    絵守の腕を思い切り振り回し

    十五回転ほどの

    逆ジャイアントスウィングをかました後

    集会所後方の神殿の石壁に向かって

    ぶん投げたのだ。

    絵守の八十キロ超の巨躯は

    軽々と約十数メートルほど

    斜め上空へ直線的に飛んで行き

    やがて地上から十メートル弱ほどの

    石壁に叩き付けられた。

    更にそこからの垂直落下。

    短時間の間に二度の大衝撃を

    背中に受けた絵守は、しかし

    重力に引かれていく最中に身体を半転。

    足の裏から見事に着地をこなした。

    何という打たれ強さ。これがスパルタか。

    筆山は相変わらず

    スパルタフィジカルに関心した。

    しかしその矢先。

    絵守は地面に向かって思い切り嘔吐した。

    どうやらレオキュキデスは

    回転酔いし易いらしい。

    「やい爺ども!

    テルモピュライには行ってやる!

    ただし!僕とレオキュキダスの二人ともだ!

    後は息子のいる後腐れの無い

    屈強な精鋭をいくらか用意しておけ!

    多分、三百もいれば充分だ!」

    筆山は老人たちに向かって

    大声でそう命じた。

    慌てふためく老人たちの後方で

    絵守が吐瀉物に

    顔を突っ込んで気絶していた。

    ?

    ?アカリ?

    ?

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  • 投稿日時

    ジューダス・クライスト【第二十八話】

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    お題:異世界転生・歴史探訪

    嘘つき同士の友情・最期の晩餐

    希望と空虚・臆病者

    据え膳食わぬは男の恥

    正解と正しいは違う

    ?

    「ははぁ。なるほどね。

    この会議はスパルタの象徴として

    死ぬ者を決めるのが目的か。

    だったら話が早い。君たちが行きたまえ」

    「はえ?」

    老人たちは筆山の突飛な発言に

    思考が追い付いていない様子。

    だらしなく口を開けたまま

    ポカンと思考を停止させている。

    その雁首揃えて呆けた表情が

    サタンすら歯噛みさせた

    筆山の悪魔根性に火を付けた。

    「あのさ、前から聞きたかったんだけど。

    僕たちスパルタの理想ってのはさ

    戦場で華々しく散ることじゃん。

    なのになんで、戦場で生き残っちゃった系の

    君たちみたいなダサダサ爺が

    最高官職として幅を利かせているのかな。

    君たちってぶっちゃけ

    スパルタの恥じゃん。

    矛盾してない?ねぇ教えてよ。

    なんでそんな死に損ないの恥晒しどもが

    若い世代を戦わせて⚫︎すのさ。

    死ぬならまず君たちからじゃないのかなぁ。

    年長者として。

    というか、今こそ国のために殉死して

    長寿の恥辱を雪ぐ

    乾坤一擲のチャンスじゃないのかなぁ。

    ということで是非

    我がスパルタのために

    喜んで死んでくれたまえ。

    嗚呼、これは寿ぐべきことだなぁ。

    我が国は大義を成して権威を得る上に

    国内の悪い見本まで掃き出して

    後進の見本とできる。ヨカッタヨカッタ」

    議会がシンと静まり返った。

    老人たちは俯いて何も言わなかった。

    地獄の底で味わったような

    凍て付いた空気がしばらく流れた。

    やがて、一人の老人が、観念したかのように

    重い腰を上げて口を開いた。

    「いえ、それは、まあ、そのぉ。

    我々は、戦場を、経験し

    死を、乗り越えた、知恵で政治を担う。

    と言いますか。やはり、まあ、そのぉ。

    先人に、倣わないと

    後進が、育たない、と言いますか。

    そこは、生き残った

    エリートの役割、と言いますか。

    まあ、そのぉ。

    我々は、六十歳以上の、市民の中から

    民会アペラの投票で、終身職に選ばれた

    高い徳と、軍事的功績を持つ

    成熟した、スパルタ市民

    ホモイオイである。

    という、自負と責任が、あるわけでして。

    まあ、そのぉ」

    老人は歯切れの悪い

    与党の国会答弁のような感じで

    たどたどしくスピーチした。

    ?

    「なるほど。

    結局は老人が支配している社会か。

    今も昔も、戦士の国スパルタにおいても

    根っこの部分は変わらないんだね」

    絵守が呆れたように肩を竦めて苦笑し

    老人に代わって話し始めた。

    「ご老体方が言いにくいようだから

    ハッキリ僕が言ってやろう。

    君たちはレオニダスに

    立って貰いたいんだろう?

    彼は家柄的にヘラクレスの子孫だ。

    それに息子もいる。

    歳だってもう壮年で若くない。

    死にゆく王として、神話的にも権威的にも

    充分な条件を満たしている。

    今回の戦争は戦略じゃないからね。

    欲しいのは勝利じゃなく象徴だ。

    王が立つこと自体に

    死ぬこと自体に意味があるわけだ」

    「おい、ちょっと待て絵守。

    それなら君、レオキュキデスだって

    同い年くらいで息子もいるし

    条件は同じじゃないか」

    「筆山君。スパルタがわざわざ

    死ぬとわかっている出兵のために

    二王の両方を送り出すわけがないだろう。

    それに、僕のエウリュポン家には

    君のアギアス家と違って

    神話的正統性がないんでね」

    絵守はそう言って

    口の端に勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

    「この裏切り者!

    君は僕を恨みに思って

    こんな卑劣なやり方で

    僕を見殺しにする気か!」

    筆山は自分がエルサレムを焼いたことや

    サタンの説得に失敗したことを

    とりあえず棚上げして、絵守を糾弾した。

    老人たちは、王二人がまた急に

    正体不明な拳闘を始めるんじゃないかと

    気を揉んでアタフタしている。

    ?

    「いや、違うね。だからこそ僕がいく」

    「は?なんで?」

    「レオキュキデス様、今なんと?」

    全く意外な絵守の返す刀に

    不覚にも筆山は老人たちと同調して

    間抜けな声をあげてしまった。

    「ご老体方。

    今までの発言を聞いての通りだ。

    レオニダスには

    どうやら戦いに行く勇気などサラサラない。

    こんな腑抜けを王として

    スパルタの象徴として

    送り出すわけにはいかない。

    正統性以前の問題だ。ならば僕が行く。

    このレオキュデスは、勇敢なる王として

    スパルタのために喜んで命を擲つ」

    筆山は絵守の啖呵に呑まれ

    すっかり呆気に取られていた。

    いつの間にか絵守は

    そんな筆山の目の前に歩み寄っていた。

    ?

    ?アカリ?

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    ジューダス・クライスト【第二十七話】

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    お題:異世界転生・歴史探訪

    嘘つき同士の友情・最期の晩餐

    希望と空虚・臆病者

    据え膳食わぬは男の恥

    正解と正しいは違う

    ?

    「あのさ、アテネのテミストクレス将軍から

    要請があったって

    僕たちには神聖な

    カルネイア祭があるじゃないか。

    明日から九日間、軍事行動は禁止だ。

    それはアポロン神との硬い約束だ。

    これを破ったら君、ペルシアどころか

    神罰で国が滅びますよ」

    古代スパルタにおいて

    神事は命よりも優先される。

    だというのになぜ自分だけが

    史実の都合で

    駆り出されなければならないのか。

    ムカつく。

    ということで筆山は

    とりあえずゴネてみることにした。

    「仰る通りなのですが

    そこは、まあ、そのぉ、アテネが

    『スパルタが出兵するなら

    ペルシア戦争においての軍事指揮権を

    スパルタに委託する』

    と、こう言ってきてるものですから」

    老人がまごまごした

    下から説得するような

    卑しい感じで言った。

    なんたる浅ましい態度か。

    筆山は尚更に苛々してきた。

    そっちがそうくるなら

    こっちだって徹底的にゴネてやる。

    「なるほど。

    軍事指揮権を預かるということは

    一時的にしろスパルタが

    ギリシャの宗主国になるということ。

    君たちはその目先の果実に

    目が眩んでいるわけだ。

    だがね、ペルシアとの戦争中に

    宗主国になったからといって、何になる?

    そもそも、本当に他のポリス全軍が

    スパルタの命に従うと思っているのか?

    あのアテネが?僕はそうは思わないね。

    だってそうじゃないか。

    例え軍事指揮権を持っていても

    我がスパルタがそれを行使できるのは

    せいぜい陸戦のみ。

    一方でテミストクレスはデルフォイから

    こう神託を受けたそうじゃないか。

    『ゼウスはアテナに唯一

    不滅なるものとして汝と汝の子らを守る

    木の砦を授けるだろう』。

    木の砦ってのは君、船のことさ。

    つまりペルシアとの戦争を決定付けるのは

    海戦ってことだ。

    我がスパルタに船が何隻ある?

    二十隻もないだろう。

    そして、こんなこともあろうかと実は僕も

    デルフォイに行って神託を賜ってきた。

    『アルテミシオンに集いし

    ギリシャ艦隊総数四百隻弱。

    うち半数以上がアテネの船団である。

    テミストクレスを信じるな』。

    わかるかい?

    もし軍事指揮権を僕たちが持ってたって

    アテネの艦隊が動かなきゃ話にならない。

    実質的な軍事指揮権は

    アテネが握ることになり

    結局ギリシャの宗主国は

    アテネってことになるのさ」

    筆山は史実を神託と偽って説得を試みた。

    デルフォイの神託はスパルタにとって

    絶対のはずである。

    「王よ。嘘はいけませんぞ。

    ここ最近に王がデルフォイに

    出向いたなんて報告は

    エフォロイから一切受けておりません」

    しまった。

    スパルタ王はエフォロイという

    五人の監視官に常に見張られてるんだった。

    筆山は人権を侵害されたことに

    ムシャクシャした。

    こうなったらとことん

    ゴネ通してやろうと心に誓った。

    クソジジイどもめ。

    史実通りにいくと思うなよ。

    こちとらもうこれ以上

    死ぬのは御免被るってんだ。

    「嗚呼、すまない。

    今のはエフォロイの連中が

    監視の目を怠っていないか

    ちょっと試してみたんだ。その通り。

    僕はデルフォイに行ってはいない。

    しかし神託は本当だ。

    僕は日頃から

    アポロン神への篤信が人一倍厚くてね。

    その信仰がデルフォイにも通じたんだろう。

    証拠にさっきまで僕は夢の中で

    偉大な予言者だった。

    夢の中で僕は今の状況・詳細を

    予言者たる神通力を用いて見通してみた。

    したところどうだ。

    テミストクレスの神託は真っ赤な出鱈目。

    ヤツは十年前から艦隊の準備を整えていた。

    それで、端からこの戦争の決戦を

    海上に持ち込むと決めていやがったんだ。

    僕たちスパルタや他のポリスは

    全員ヤツに纏めて謀られ

    陸戦ではテルモピュライで

    時間稼ぎの囮に使われ

    海戦では主導権を握られる。

    結果的にペルシア戦争の功績は

    ほとんどヤツのもの。

    ポリス国家が揃いも揃って

    アテネの詐欺師の傀儡にされて。

    実に情けない話じゃないか」

    筆山は、自らの史実に対する知識を総動員し

    更にそれらに脚色を加えて

    揺さぶりをかけた。

    何としてでもこの爺たちを

    丸め込んでやろうという試みだ。

    「レオニダス様。

    その大胆不敵な推論には恐れ入ります。

    しかし例え王と言えども

    つい先ほどに嘘を述べた人間の言葉を

    我々が易々と呑み込むことはかないません」

    ?

    しくじった。デルフォイに行ったなんて

    軽々しく言うんじゃなかった。

    もはや方針を変えるしかあるまい。

    筆山は心中で思い切った決断をした。

    出兵だ。

    こうなったら正々堂々と

    ペルシアを打ち破り、勝利してやる。

    それには三百などでは足りない。

    出来得る限りの総戦力で

    出陣を認めさせるしかない。

    「だったらカルネイア祭は中止だ。

    スパルタ市民一万総出で出撃するぞ」

    「とんでもない。奴隷が反乱を起こします。

    周辺民のペリオイコイ五万

    農奴のヘイロータイ二十万。

    スパルタ市民一人あたり

    二十人は抱えておかねばなりません」

    「じゃあ奴隷たちも一緒に連れて行くぞ」

    「それでは国が空になって滅びます」

    「なら五千だ。

    スパルタ市民五千と奴隷十二万五千。

    十三万の大軍勢で攻めるぞ」

    「無理です。流石にカルネイア祭を

    中止するわけにはいきません」

    「なんだと?

    さっきはカルネイア祭の間でも

    軍事指揮権が貰えるから

    出兵すべきだと言っていた癖に。何を今更」

    「いえ、ですから王が最初に言った通り

    カルネイア祭を疎かにしては

    神罰で国が滅びます。

    しかしながら

    ここで一切の出兵を惜しめば

    我がスパルタは

    アテネやテーベの後塵を拝し

    その威信を失います。

    どころか『ギリシャは

    戦う意志も見せぬ臆病者』

    とペルシアに侮られ

    戦争の全体士気が

    敗戦に揺らいでしまい兼ねません」

    「だから祭りに支障が出ない程度の

    少数で出兵して、スパルタのために死 ね。

    というわけだね」

    絵守が薄く笑みを浮かべながら

    割って入った。

    「まあ、そのぉ。そう言うことになります。

    これは我が国の権威に関わる大問題ゆえに」

    老人たちは相変わらず煮え切らない調子で

    まごつきながらそう言った。

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