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アカリ(21)
T164 B88(E) W56 H87

「アカリ、聞いてる?おーい」
タンクトップのクロ子が
私の顔を覗き込んでいる。
ハッと我に返って言葉を返す。
「あ、ごめん、聞いてなかった。
寒くて。何だっけ?」
「いや、シロ子とアカリが
店ン中でも厚着して脱げないのは
家と職場の往復で
耐性がなくなってんじゃないかって話よ」
「確かに最近は
ぬくぬくした現場ばっかだからね~」
ロシア帽にコート姿のままのシロ子が
モツ煮を口に運びながら答えている。
「そういやクロ子って
今何の仕事してんだっけ~?」
「私?ドボジョよ。ドボジョ」
「ドボジョ?何それ?
凄くボンジョビのファンってこと?」
「違うよ。土木女子。
これでも現場監督なんだからな」
「へえ~。だからそんな薄着でも平気なんだ」
「あたぼーよ。土方舐めんなってハナシ」
クロ子は得意になって
変な言葉遣いそのままに
土木業について語り始めた。
すると段々意識が明瞭になってきた。
なんということか。
私はあまりの寒さに耐えきれず
会の途中から意識を
妄想の中に耽溺させていたのだ。
そしてあまつさえ
その幽界の先で友人のハラワタを
引っこ抜いてしまった。
「…ごめんねシロ子」
ボソリと、懺悔の念が口から零れ落ちた。
「え?何が?」
「いや、ハラワタ…」
「ハラワタ?ハラワタってこれ?」
シロ子はモツ煮を指しながら
ポカンとしている。
確かにそれは牛のハラワタである。
「欲しいの?」
「…え?ああ、うん。ハラワタ
私も頼めば良かったなぁって」
「いいよ~。これ全然美味しくないからさ。
食べきるの地獄だな~って思ってたんだ。
はい、あげちゃう」
シロ子がモツ煮を丼ごと
こちらにスライドさせて寄こした。
謝らなきゃよかった。
大体モツ煮に失礼だ。
私は目の前の黒いモツ煮に敬意を払い
命をいただきます。
と心の中で唱えて頬張った。
地獄のような味がした。
黒目が白目になりそうだった。
黒より黒い白が、やはりこの世にはある。
そう思ってクシャミが出た。
くしゃみの途中で諦めたみたいな
クシャミだった。
現実が一瞬ズレた気がした。
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