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アカリ(21)
T164 B88(E) W56 H87
ケース②
【人生もポートフォリオ】
「出会いも資産。
運用次第で未来が変わるんだよ」
そんな文言をぶち込んできた
レイナという女性のプロフィールには
『30歳でFIRE目指してます!』
と書いてあった。
彼女はチャットの一発目から
「仮想通貨とETF、どっち派?」
と聞いてくる猛者だった。
「とりあえず、今はどっち派でもありません」
「じゃあ、ビットコインと
出会いの共通点から話そうかな。
どっちも初動が命で
感情に流されると損するんだよね」
彼女の言葉は、自分の頭の中だけで
満足して完結しているようで
あまりに俯瞰を怠って
構築されているために
他者に伝聞するための心遣いが一切ない。
つまり
何を言っているのか全くわからない。
加えて、5分おきに
経済系Youtuberのリンク
コラージュしたグラフ等が
矢継ぎ早に送られてくる。
「将来設計ってさ
誰と組むかで全然変わるよ?
人生もポートフォリオだから!」
「随分と大胆な視点をお持ちですね」
「私さ、人生のポートフォリオ組んでるの。
仕事・交友・恋愛。
どれも分散投資しないと」
「でも経済論理性に交友や恋愛を置くのって
何の発展性もなくないですか?」
「あるよ。時間も感情も投資だから」
「損得の二元論で
仕事以外の人付き合いしても
疲れるだけになりませんか?」
「人生は有限なんだから
効率的に運用するべきなんだよ」
なんともつまらない生き方に
全力で舵を切っている
ように見える彼女の船。
「恋愛にも配当ってあるんですか?」
とりあえず乗船してみる。
「もちろん。かけた時間分のリターンが
男から還ってこなかったら
すぐ損切りしないとね」
彼女の辞書に無償の愛
という言葉はないようだ。
しかし彼女が自論を
本気で語っていることだけは伝わってきた。
「アカリちゃんも、自己投資しないと。
セミナー来る? 参加費は軽くペイできる」
目の前の我が人生の含み損を
スワイプでそっと損切りした。
ケース③
【孤独と対話する自撮り】
「この光、私の孤独が話してるの」
しずくという名の彼女は
白壁の前で撮られた10枚の自撮りを
一気に送りつけてきた。
どれも微妙に角度が違うだけだった。
しかし自撮りを通して
己の孤独と対話するという
彼女の感性は面白い気がした。
確かに自撮りとは
究極の自己完結の形のひとつだ。
そこに他者が介在しなければ
なるほどそこには孤独しかあるまい。
そこに映りこんだ光を
『孤独の言葉』と表現し
それが視覚化したものだというセンスも
なんだかそんなに嫌いではない気がした。
「なんだかいい感覚ですね、こういうの」
「そうでしょ? これは『午前の孤独』で
こっちは『午後の孤独』」
ネーミングセンスには閉口した。
彼女が題を付けると途端に
写真まで陳腐になる気がしたので
辞めた方がいいと思った。
が、彼女が時間ごとに
撮影を区切っていることには
なんだかフィロソフィー
なこだわりを感じた。
「あなたも顔、撮ってみてよ。
そう、泣く直前の顔とかがいいかも」
誰が撮るんだそんなもん。
そもそも『泣く直前の顔』を撮ることに
どんな意図があるのか?
皆目見当が付かない。
「なんで泣く直前がいいの?」
「人間性のギリギリを攻めたいの。
泣いちゃったら、もう感情の奴隷だから」
なんだかそれなりに丁度よく
「ぽさ」を含んでいるように聞こえた。
それで私は
さすがに泣く直前とはいかないが
試しに一枚、自分の飾り気のない
「あるがまま」の横顔を送ってみた。
果たして私は
彼女の口をついて出るであろう
人間性を透かして
更に奥深いところに触れるような
人生の深淵を感じさせるような
そんなアーティーな一言を
暗に待ち伏せた。
一体、どんな言葉のメスで
私の自撮りを解体し
モダンな表現に昇華してくれるのか?
「うーん、明暗のバランスが悪いね」
普通に写真のダメ出しをされただけだった。
あれじゃないのか
君の仕事は、その不調和に
『なんとなくのアーティー』
を付与することではなかったのか?
明暗のバランスがキレイにとれていたら
それにこそ
『欠落を隠す技には
人の本質が宿っていない』
とかなんとか言って
大いにケチをつけるべきなんじゃないのか?
何故に私の写真に限って
写実的に扱う必要があるのか。
とても裏切られた気がした。
「今度さ、二人で撮り合おうよ。
光の中で、感情を残すの」
私は返事を返さなかった。
今は残したくない感情の方が
多い気がした。
ケース④
【北向きのベッドは運気が死ぬ】
「北向きのベッドで寝てると
対人運が枯れるよ」
ハナコはいきなり初対面で
そんなメッセージを飛ばしてきた。
「なんでですか?」
とりあえずの返事を打って送る。
それと相打ちくらいの間隔で
「間取り図ある?」
二の矢が飛んで来た。
あんまりレスポンスが早いので
スマホで適当に描いて送ると
秒で三の矢が襲来した。
フリック入力で追いつくレベルではない。
もしやこれが風水の力?
風水エンジンてやつ?
チェーンコンボ簡単に繋がるアレ?
いや私にとっては
全然簡単じゃないんだよなぁ。
頭にチョココロネを二つ付けた
蜘蛛っぽいテコンドーガールを
キタエリボイスで
サディスティックに再生していると
意識の外から風破刃の三枚刃が
上中下段を掠めてきた。
「赤いものを西側に置いて。
あと、財布は黄色禁止」
「風水ですか?
あれって科学的な根拠あるんですか?」
「それは体感」
「体感ということはハナコさんは
身体知としてそれを熟知している
ということですか?」
「シンタイチ?」
「言語知外での
身体感覚での知的経験知です。
例えばその体感を言語化できますか?」
「ゲンゴチ?」
「身体知外での
言語感覚での知的経験値です。例えば…」
『体感』という言葉を信用するには
相当の信頼がいるように思える。
でも、ハナコはどこか母性的だった。
「う~ん、確かに
私も言葉を大切にしなきゃね」
「私も、もっと体感を大事にしてみます」
それから、私の部屋の西側には
赤いキーホルダーが
今も転がっている。
?アカリ?
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お手数をおかけいたしまして
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