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アラビアンナイト 川崎 / ソープ

8:30~翌0:00

当日予約8:00~

神奈川県川崎市川崎区堀之内町13-8

JR川崎駅/京急川崎駅 ※送迎車ご用意致しております。

入浴料 11022,000円~

利用可能カード:VISA、MASTER

044-233-4152

※お電話の際に「ビンビンで見た」とお伝えください

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アカリ(21)

アカリ(21)

T164 B88(E) W56 H87

本日出勤 11:00〜19:30

  • 投稿日時

    仕事が終われば【烈】

    ?

    (お題:飛行機と出張、信頼、私の愚行

    口から出まかせ、リストラされた中年)


    蛍光灯が眩しくて、夏。

    夢を、夢を見ていた。

    夢の中の俺は屋台で

    テキヤのオヤジに発砲して

    怒って殴りかかってきたオヤジに対して

    刃傷沙汰を起こしていた。

    何故か俺は大権現様に

    妖刀村正を帯刀奉納に行く途中だったのだ。

    またつまらぬジジイを斬ってしまった。

    その刀筋を地元の大親分に見込まれ

    後の俺は裏社会で大出世。

    泥鰌組の次期若頭筆頭まで上り詰めた。

    そんな風に人が

    気持ちよく寝ていたというのに

    この喧しい白熱灯のせいで出世が台無しだ。

    まあ大体、妖刀村正なんつっても

    当時、村正って銘の刀が大量生産されて

    みんな村正使ってたから

    あっちの辻斬りも村正。

    こっちの辻斬りも村正。

    こりゃ妖刀じゃってな話で。

    じゃあ強盗がみんなユニクロ着てたら

    ユニクロは妖服ってことになるけども。

    果たしてそれでいいんかい?

    納得できるかい?

    俺が納得しても

    ユニクロが納得しないんじゃないかな。

    つまりそんなユニクロ的な刀を

    大権現様に帯刀奉納するって時点で

    怪しいと思ってたのよね、俺は。

    でもね、それもわかりきった上で

    おれは夢を楽しんでたわけじゃん?

    それをばこの不細工な蛍光灯ときたら。

    全く無粋な野郎だよ。

    「気が付きましたか?」

    見れば傍らには白衣の天使

    というか大権現

    というようなオバハンが立っていた。

    「あの、人が寝てる時に電気つけるの

    辞めてもらっていいですか?」

    俺はソフィストぶった口調でそう言った。

    ?

    果たして、俺は生きていた。

    機動隊が投擲した

    スタングレネードのせいで

    一時は意識が不明瞭だったが

    実際は病院に担ぎこまれただけで

    外傷も何もなかった。

    携帯から部長の声がする。

    会社は俺の「勇気ある行動」

    を美談として処理するつもりらしい。

    そんで予定通り出張を継続して

    現地法人の立て直しをするように。

    とのこと。

    冗談じゃない。

    何が「勇気ある行動」だ?

    「卑劣なる裏切り」の間違いだろうが。

    パーカーたちはきっと気づいてた。

    俺が裏切ってたって。

    じゃなきゃいくら何でも

    俺を機長室に一人で行かせたりしない。

    着陸をすんなり受け入れたりしない。

    「OK。道具も舞台も整ったってことだな」。

    そう、確かにあの時点で

    パーカーたちの訴えは

    世界中に拡散されることが確定していた。

    だからか。

    彼らは航空会社の不正を暴ければ

    端から自分たちの命なんて

    どうでもよかったのか。

    俺が裏切ってようがどうだろうが

    そんなことはどうでもよかったのか。

    「どうせ俺たちは終わってるんだ」。

    パーカーの呟きが脳裏に蘇る。

    そんなことはない。

    着陸までの間、俺たちは笑っていた。

    あのパーカーたちの笑顔は嘘じゃなかった。

    でもそれは、最後ぐらいトニーと

    元同僚と仲違いせずに

    楽しく過ごしたかっただけ

    だったのかもしれない。

    実際、トニーだった俺は笑っていた。

    あいつらと一緒に笑っていた。

    五年間笑えていなかった俺が。

    笑える話だと、あの時は思った。

    今は笑えない。

    何故ならあれは俺じゃないから。

    笑っていたのは

    あいつらの同僚だったトニー。

    俺は他人の人生を借りて茶番を演じただけ。

    ほんの一時、トニーに体を貸しただけ。

    笑えない話だ。

    結局、俺はパーカーたちと出会って

    罪の十字架を更に重くしただけだ。

    今思えば、性の十字架なんてのは

    随分と軽いもんだったなぁ。

    もはや、どうでもいいことか。

    とにかく、俺は仕事をしなければならない。

    再度出張に出掛けなければならない。

    改めてタイ行きの便に乗った俺は

    窓の外に死神を探しながら

    パーカーたちに呟いた。

    「嘘をつきました。ごめんなさい。

    死 ねませんでした。ごめんなさい」

    ?

    バンコクに着いたのは夜だった。

    空港の出口で、一人の女が

    俺の名前を書いた紙を持って立っていた。

    「波佐間さん?」流暢な日本語だった。

    美貌の人であった。

    古語で言うところの

    超マブいスケであった。

    なんだろう。俺はこの女を知っている。

    知っているどころではない。

    目の前にいるその女は

    死んだはずの妻に瓜二つだった。

    俺は狂ってしまったのだろうか。

    とうとう幻覚まで見え始めたのか。

    そういえば

    トニーも俺に瓜二つという話だった。

    この世には、同じ顔をした人間が

    三人はいると聞いた事があるが

    それにしたって

    そんなドッペルゲンガーに

    出会うような奇跡が

    こうもポンポン続くはずがない。

    ではこれはどういうことか。

    察するに、俺はトニーと間違われたことで

    無意識にも愚かな希望を持ってしまった。

    妻の写し身も

    どこかに存在しているはずだと。

    その即席な信仰を

    俺の精神はいつしか妄信した。

    そんな自分勝手な願いが

    こうして妻の面影を

    赤の他人に投影して見せている。

    そんなところだろう。

    大馬鹿野郎だ。

    そんなことで自分を慰めて、何になる?

    お前は妻とも、パーカーたちとも

    死を共にせず

    一人のうのうと生き残っている癖に

    この上、何の償いもせず自分だけの世界に

    逃げ込んで自慰に耽るのか?

    お前はどれだけの卑怯者に成り下がれば

    気が済むんだ?

    死 ね。死 ね。死んで償え。

    でもお前には自死も許されない。

    クソ野郎が。

    ?

    ?アカリ?

    ?

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  • 投稿日時

    仕事が終われば【陣】

    ?

    (お題:飛行機と出張、信頼、私の愚行

    口から出まかせ、リストラされた中年)

    ?

    「俺の妻も、この会社の飛行機で死にました」

    言うつもりのなかった言葉が

    口を突いて出た。

    目の前の二人がハッとした顔をして

    俺を見据えた。

    こんなことを言うつもりはなかった。

    出張が決まった時

    俺は望んで妻と同じ航空会社を選んだ。

    一緒に死ぬべきだった。

    死なねばならなかった。死 ねなかった。

    ならば、万が一に墜落するその時があれば

    せめて同じように。

    つまりこれは俺のタダのエゴだ。

    航空会社に責任転嫁しても

    仕方がないことだ。

    しかし、トニーは

    あのパーカーたちの同僚だったトニーは

    会社に殺された。

    それを聞いてから

    どうしても思わずにはいられない。

    俺の妻も、この会社の

    ブラックな労働環境のせいで

    死んだのではないか。

    杜撰な管理に殺されたのではないか。

    目の前で蒼い顔をしている二人を見ながら

    努めて冷静に俺は続けた。

    「こんなことを言うのは

    お門違いだとわかっています。

    しかし、彼らの、ハイジャック犯の同僚も

    あなた方の会社に殺されているんです。

    俺はね、彼らの言うことが

    全部間違ってるとは、思わないんですよ。

    もちろん、罪を犯した人間は

    罰を受けるべきです。

    彼らも。あなた方の会社も。

    そして平気で彼らのことを

    欺いているこの俺もね。

    だから俺は

    これ以上彼らに

    罪を背負わせるわけにはいかないんですよ」

    ?

    機長も副操縦士も

    しばらく沈思黙考していた。

    嫌な沈黙がしばらく続いた。

    やがて、機長が

    何かを決心したように顔を上げた。

    「…わかった。疑ってすまない。

    その、本当にすまなかった」

    副操縦士も、顔をあげて

    バツの悪そうな顔をしている。

    「しかし、本当に着陸しても大丈夫なのか?

    ここからだと福岡空港辺りになるが…」

    「大丈夫です。神は俺の舌だけは

    丈夫にお創りになったのです」

    「…よくわかりませんが

    後のことは頼みましたよ」

    副操縦士が初めて口を開いた。

    それに呼応するように、機長の眉が動いた。

    「緊急コード。7700」

    続いて副操縦士が無線を開く。

    「Mayday, Mayday…」

    「OK。それじゃあ、何とかしてきますよ」

    管制塔と連絡を取っている二人に

    そう言って、俺は機長室を後にした。

    ?

    機長室を出るとCAが立っていた。

    心配と不安が入り混じったような顔で

    何か聞きたそうにしている。

    「あの…」

    「大丈夫。何とかするから」

    俺は再び客室へと戻った。

    パーカーたちは演説を終えていた。

    乗客の何人かが

    まだスマホを弄って操作している。

    おそらく録画した

    ビデオの編集か何かだろう。

    パーカーたちの訴えは

    不特定多数の端末に保存された。

    後は俺の仕事だ。

    「どうだった?」

    パーカーが振り向きざまに聞いてきた。

    「わんすらんでぃんぐ」

    「着陸?大丈夫なのか?」

    「どんうぉーりー。かんせーとには

    ぱわちゃーじだけこーるしてる」

    「機長に妙な様子はなかったか?」

    「いふほかのことこーるしたら

    かすたまーおーるじぇのさいどかったー

    いうたった」

    「なるほど。

    トニー、お前なかなか過激派だな」

    「いえす。きゃぷてんふぇいす

    ぱーふぇくとぶるー。わら」

    「それで?どこに着陸するんだ?」

    「ふくおか」

    「何で福岡なんだ?」

    「はかためんたいうまかっちゃん。

    あんしんあんぜんやすらぎほけん。

    らーじすてーしょんでおーるいんふぉ

    すぷれっどにだ」

    「OK。道具も舞台も整ったってことだな」

    「がってんしょうちのすけ」

    俺は歯を見せて笑った。

    パーカーたちも笑った。

    機体は静かに降下を始めていた。

    まだ誰も、それに気が付かない。

    ?

    俺はパーカーたちと話し続けた。

    昔のこと。今のこと。

    出鱈目なカタコトを、もっと出鱈目な嘘と

    罪と共に重ね続けた。

    俺は笑っていた。

    仲間たちと共に笑っていた。

    トニーとして笑っていた。

    今思えば、俺が笑うのは

    五年ぶりだったかもしれない。

    それも笑える話だと思った。

    やがて、機体が地面に触れた。

    タイヤが滑走路を擦った。

    一秒。二秒。客室ドアが爆ぜた。

    白い閃光。耳をつんざく破裂音。

    黒い装備の男たちが一斉に客室へなだれ込む。

    パーカーたちは床に押し倒された。

    拳銃が蹴り飛ばされる。

    わずか数秒のことだった。

    耳鳴りがする。目が眩む。

    しかし俺は、通路に立ったまま

    その光景を見ていた。

    俺は足元にある硬いものを

    拾い上げて叫んだ。

    「おい!こっちを見ろ!拳銃を持ってるぞ!」

    裏切り者に死を。

    叫びながらそう願った。

    次の瞬間、俺は通路に倒れた。

    舞台の幕がゆっくり下りるように

    目が閉じた。

    銃声を二発、聞いた気がする。

    ?

    ?アカリ?

    ?

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    仕事が終われば【皆】

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    (お題:飛行機と出張、信頼私の愚行

    口から出まかせ、リストラされた中年)


    「あいますとうぉーきんぐでっど」

    「良いんだよ

    もう仕事なんてしなくていいんだトニー」

    「お前は俺らがそんなに働くなっつっても

    聞かなかったよな」

    「そうそう

    いっつもTake it easy.とか言って」

    「いえあ。しぇけなべいべ」

    「しかしわかんねえな。

    どういうことなんだ、トニー?

    そもそも、お前は何で

    死んだことにされてたんだ?」

    まずい。そこまで考えてなかった。

    確かに俺がトニーとして

    ここにいるということは

    会社が意図的にトニーの死を

    捏造していたということになる。

    その理由は?

    聞くところによると

    トニーの事故は会社側の過失だ。

    どう考えても過労運転事故だ。

    人員不足、整備不良、安全手順違反…

    これが発覚すると大問題になる。

    そこで会社は、トニーに裏金を渡し

    退職扱いにして海外に送った。

    その後「事故で死亡」という話が流れる。

    当然、同僚たちはこれを鵜呑みにする。

    これだ。この線でいこう。

    「ええと、かんぱにせいず

    いっつぷろぶれむ。あくしでんつ。

    ゆーはでぃさぴあ。これますと。

    ぎぶみーまにぃ」

    「なんてこった。

    あいつら、労災隠しのために

    トニーの存在を消そうとしたってのか」

    「監督署の調査にビビりやがったんだ」

    「チェックされたら終わりだもんな」

    「保身のためにトニーを殺しやがったのか」

    …計画通り。

    流石はかつて新世界の神を志した俺だ。

    というかこいつら

    俺の言ってること理解でき過ぎじゃないか?

    俺だってよくわかんないのに。

    どんだけトニーと以心伝心してたんだよ。

    嗚呼、トニー。

    見ろよ、お前には

    こんなに良い仲間たちがいたんだぜ。

    お前は幸せものだよ。

    さてここからどうしよ。

    何にも考えてないよ。

    火に油注いだだけだよ。

    ちゃんと働け、トニー。

    ?

    「そういえばわどゅゆうぉんつ?」

    「ああ、クソ会社を

    内部告発してやろうってことさ」

    「こんだけの事件になりゃ

    責任追及は免れないだろうからな」

    「窮鼠猫を噛むってヤツよ」

    その最後にパーカーが小さく呟いた。

    「どうせ俺たちは終わってるんだ」

    …お前たちはまだ何も終わっちゃいないよ。

    言いかけて呑み込んだ。危ない。

    俺は今カタコトなんだった。

    しかしこいつらは悪漢ではない。

    今ちょっと魔が差してるだけだ。

    その魔が差した分の償いは

    必要かもしれないが

    それ以上の贖罪なんて必要ない。

    終わるのは俺だけでいいはずだ。

    だから、俺はこいつらにこれ以上

    無駄な罪を背負わせてはならない。

    「ゆーしゅっどすぴーちえびわん。

    あんどえびわんそれ

    すまほびでおでれこーでぃん。

    そんでえあぷれんがらんでぃんぐしたら

    おーる拡散わーるどSNSするよろし」

    「俺らの演説を客に撮影させて

    地上で拡散させるってか。

    そりゃいい考えだトニー」

    「そしたらゆーしゅっどごーふろんと。

    おーるおぶゆーますと。

    じょいんとぱわーでぱっしょんを

    るっくるっくこんにちわ」

    「俺ら全員で演説して誠意を伝えろってか?

    それはいいが、お前はどうするんだトニー?」

    「みーはきゃぷてんを

    のっきんおんへぶんずどあ。

    とーきんぐへっずYOYO」

    「OK。じゃあ機長の方は任せたぞトニー」

    俺は機長室へ向かった。

    その後ろで彼らがゆっくりと演説を始めた。

    会社の不正。揉み消し。不当解雇。

    これが世に出回れば、この航空会社の信用は

    ゲヘナの底まで失墜するだろう。

    その中心部には

    サタンに咥えられたユダがいる。

    そして今、ここにもユダがいる。

    天空のユダは俺である。

    地獄に堕ちるのは俺である。彼らではない。

    「もし。俺はただの乗客です。

    しかし持って生まれた悪魔根性で

    ハイジャック犯たちを

    懐柔することに成功しました。

    安全に事を運ぶため、協力してください」

    俺は途中で出くわしたCAに

    状況を説明した。

    CAはエディ・マーフィーの顔芸みたいに

    目を見開いてしばらく仰天していたが

    やがて事情を呑み込んだ。

    …というところまでは至らず

    正直よくわからないが

    とりあえずこいつは味方だろうと

    妥協して納得したような感じで

    機長室まで案内された。

    何だかちょっとムカついた。

    ?

    「…というわけで

    何とか何処かへ着陸してください」

    「君は拳銃を持っていないのかね?」

    機長が訝し気に俺に問う。

    副操縦士もさっきから

    不審な顔でこちらをチラ見してくる。

    ヤな感じ。

    「持ってませんよ。

    ボディチェックしますか?

    連中に聞いたところでは

    空港の警備会社に

    協力者がいるようでしてね。

    そこから部品を分解した形で

    どうにかこうにか

    機内に持ち込んだらしいです。

    どうです?

    俺がハイジャック犯だったら

    こんな情報を

    あなた方に漏らすわけないでしょう。

    それにね、あなた方の会社は

    言ったようにあの四人以外の社員からも

    相当な恨みを買っている。

    お二方も例外に漏れないんじゃないですか?

    それとも、全く心当たりがない?」

    機長は一瞬

    歯噛みしたような表情になって俺を見たが

    すぐに弛緩したような顔で前に向き直り

    大きな溜息をついた。

    副操縦士もチラ見を辞めて

    小さな溜息を漏らして俯いていた。

    ?

    ?アカリ?

    ?

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    仕事が終われば【者】

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    (お題:飛行機と出張、信頼

    私の愚行、口から出まかせ

    リストラされた中年、遠距離恋愛)

    ?

    翌日。

    俺は成田からバンコク行きの

    飛行機に乗った。

    顔に新聞紙を載せて寝ている

    小太りの中年紳士。

    赤子に哺乳瓶をしゃぶらせる若い母親。

    おそらくその夫であろう

    隣で文庫本を捲っている青年。

    杖をついてよろけながら

    荷物を取ろうとしている老人。

    それを甲斐甲斐しく手伝うCA。

    地上から四万フィート離れた上空に

    老若男女の生が横溢している。

    そのことを呪う亡者がいた。俺である。

    「こんな鉄塊がこんな高いところを

    飛ぶ道理がおかしい。

    落ちるべきだ。落ちないかな。落ちてくれ」

    死神はどのくらいの

    気圧に耐えられるのだろう。

    今のところ飛行機の窓から

    死神を見たなんて話は聞いたことがないが。

    もし死神が気流に乗って

    浮いてるのだとしたら

    この高さだと時速二百キロくらいで

    吹っ飛ばされちゃうよね。

    フワフワ浮いてるどころじゃないっての。

    あと、気温もさ。

    あんな寒そうなボロ布一枚で

    -50℃前後を耐えられるのかって話。

    地獄だな。

    まあ地獄から出張して来てるんだろうけど。

    じゃあ平気なのかな。

    だったら早く迎えに来てくれよ。

    ?

    その願いが通じたのか

    機内に突然、死神が現れた。

    「騒ぐな」通路の中央に立った男が

    拳銃を掲げた。

    続いて客席から二人、男が立ち上がった。

    更に通路奥からCAが…

    喉元に銃口を押し付けられながら

     ーら歩かされてきた。

    通路中央、パーカー。

    客席左、スカジャン。客席右、ライダース。

    CAの背後、ネルシャツ。計4人。た

    それぞれがラフな

    しかし色は黒で統一された格好をしていた。

    見た感じ、どうやら全員日本人だ。

    各々が一丁づつ拳銃を携帯している。

    「この飛行機はハイジャックされた」

    パーカーは声を荒げるでもなく

    妙に落ち着いた調子で宣言した。

    逆にそれが得体の知れない恐怖を生んで

    搭乗者たちを縛り付けた。

    口角の位置を高く固定して

    貼り付けたような笑顔を振り撒いていた

    CAたちの表情が凍りついている。

    殊に、銃口を突きつけられているCAなどは

    口をパクパクさせながら

    引きつけを起こしたように震えている。

    「俺たちはこの航空会社の不正を

    世界に知らせる。

    悪いがその広報に立ち会ってもらう」

    乗客の誰かが小さく泣いた。

    スカジャンが、その嗚咽の音に反応して

    素早く銃口を向けた。

    一瞬にして機内に緊張が走る。

    耐えきれなくなった

    人質のCAが膝から崩れ落ちた。

    腰が抜けたのだろうか。

    「おい、立て。立てないなら他のヤツを…」

    「待ってくれ」

    気が付くと俺は立ち上がって

    声を上げていた。

    「その人を放せ。俺が人質になる」

    「動くな。それ以上、動くと撃つ」

    俺はその言葉を意に介さず

    ネルシャツの元へ

    ゆっくりと歩を進めていった。

    「チッ…クソ野郎が。

    日本語わかんねえの…て、あれ?お前…」

    パーカーは発砲しなかった。

    それどころか

    訝し気にこちらへ近づいてくる。

    「お前、トニー!トニーじゃないか!

    生きてたのか?」

    他の連中も中央通路付近に集まってきた。

    「ほんとにトニーじゃないか!

    嘘だろ、奇跡だ」

    意味が分からない。

    分からないが

    とりあえずトニーというのは

    こいつらの仲間らしい。

    ここで、これを利用して

    こいつらに取り入ることができれば

    御の字だ。

    俺は言った。「あいるびーばっく」

    ?

    トニーという日系フィリピン人がいた。

    空港会社の契約社員で

    やはりこいつらの同僚だったらしい。

    そんで俺に瓜二つだという。

    そういえば俺の親父は

    すしフィリピンパブが好きだった。

    母親と出会う前から嵌っていた。

    そしてやたら

    バタくさい顔をした俺が生まれた。

    これはつまり…。やめよう。

    家系図にも載っていない

    暗部に深入りするのは

    エプシュタイン島の闇を覗くのと

    同じくらい危険だ。

    置いといて、トニーは真面目な男だった。

    会社の言うことなら何でも聞いた。

    そして死ぬほど働いた。

    ある日、空港からの帰り道。

    トニーが事故を起こした。

    車で中央分離帯に突っ込んだのだ。

    会社はこれを「私生活の事故」として処理。

    だが同僚たちは知っていた。

    その日のトニーが

    36時間勤務だったことを。

    「俺は死んだって聞いてたからよ。

    このヤタケタだって、お前の弔い合戦

    みたいなところが半分あったんだぜ」

    「そうだよ。なんで生きてんだよ。

    いや良かったけどさ。連絡ぐらいくれよ」

    「もう手遅れじゃん、これ」

    「いえす。あいあむじあんだーていか」

    「なんだそれ。不死身ってことか?」

    「そうそう」

    もはやこうなったら

    トニーになり切るしかない。

    トニーは日本語も英語も不自由で

    だが連中にはなぜか

    トニーの言うことが通じた。

    ならばこれは俺の得意分野だ。

    自慢じゃないが俺も英語は全くできない。

    そして俺は適当に喋るのが得意だ。

    いやそもそも、こんな死んだような人生を

    抜け殻として生きるより

    トニーとか言うヤツの魂を

    この身にぶち込んで

    もうこの先、トニーとして生きる方が

    まだ生き甲斐があるんじゃないか?

    どうせ俺は五年前に死ぬべきだったんだ。

    今更トニーでもスタークでも

    何でもいいじゃないか。

    でも待て。

    そうすると俺は仕事ができない。

    どころか犯罪者になってしまう。

    そうだ

    こんなことをしている場合じゃない。

    俺は仕事をしなければならない。

    ?

    ?アカリ?

    ?

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    仕事が終われば【闘】

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    (お題:飛行機と出張、信頼

    私の愚行、口から出まかせ

    リストラされた中年、遠距離恋愛)


    しかし、予測していない事態が起こった。

    俺の担当していた海外取引の契約が

    唐突に成立したのである。

    そして、その最終契約には

    責任者である俺の立ち合いが必須であった。

    マジかよ。なしてこげなタイミングで?

    しかし、今の俺は転職したての

    新人サラリーマンの身の上。

    流石に入社早々

    これを反故にすることはできない。

    幸いにして契約には

    一時間程度しかかからない。

    新婚旅行に支障はない。

    ただ、少し便をズラす必要がある。

    早速、旅行会社に掛け合って駄々を捏ねた。

    しかし、流石に

    二人分の席をズラすことは難しかった。

    しょうがない。

    妻には予定の便で行ってもらって

    一足先に英国で

    寛ぐなり観光するなりしてもらおう。

    数時間後には俺も追い付けるはずだ。

    「新婚旅行だろ?構わず行ってこいよ」

    と軽口で囃す同僚もいたが

    取れる仕事の責任を

    放棄するわけにはいかない。

    ?

    「すぐ終わるよ。夜には飛ぶ」

    俺は妻にそう告げた。

    「無理しなくていいよ?」

    妻は少し残念そうな顔をしながらも

    心配げに気遣ってくれた。

    「大丈夫、明日の夜にはヒースローだ」

    抱きしめたいが時間がない。

    「ミニャック、夕焼けすごいらしいよ」

    「それは見たいな。動画送っておいてくれ」

    俺は靴紐を結び終えると

    妻の唇に軽くキスをした。

    「少し寂しい思いをさせるけど

    すぐに追いつくから。

    先に英国を満喫しておいで」

    妻の頭をポンポンしながら

    恰好付け気味に前衛芸術的なポーズを

    玄関先で決めると

    彼女はいつものように破顔して

    屈託のない笑顔を作った。

    「いってらっしゃい。

    じゃあ一足先に豪遊して待ってるからね。

    早く迎えに来てね」

    あいるびーばっく!

    俺は勢いを付けて叫びながら

    家を飛んで出た。

    熱を帯びた照明が

    一人ひとりに濃い影を作り

    途切れることのない蝉の音響が

    全力で夏を演出していた。

    ?

    妻は朝の便でイギリスに発った。

    そして

    永遠にその土を踏むことはなかった。

    凶報を聞いた時。通夜の時。葬儀の時。

    俺は泣かなかった。泣けなかった。

    涙が、流れてくれなかった。

    これは芝居か?

    俺はまだ舞台の上にいるのか?

    全てが作り事のようで

    何にもリアリティがなかった。

    強いていえば、後悔していた。

    何を?一緒に死 ねなかったことを。

    同じ便に乗っていれば、俺一人

    こんな舞台に取り残されることはなかった。

    今も尚、俺の瞼からは一滴の涙も流れない。

    その瞳は、虚ろに光を失ったまま

    通常運転している。

    ?

    それからの俺は、死んだように生きている。

    いや

    生きているだけで、もはや死んでいるのか。

    俺の時間は、ハムスターの回し車のように

    同じ場所をぐるぐると空回りし続けて

    あの日から一刻も先に進んでいない。

    ただ、会社の端末にログ インし

    数字を整え、取引先に頭を下げる。

    その繰り返し。

    妻の死後も変わらず出社する俺を見て

    ある同僚は精神科の受診を勧めてきた。

    違う。

    俺に必要なのは入院や薬物ではない。

    俺は仕事が終われば

    すぐに行くと妻に約束した。

    しかし妻は随分遠くまで行ってしまった。

    「後追い」という近道をすれば

    妻のところまで

    早馬で駆けつけることもできるだろう。

    断じて俺にそんな行為は許されない。

    何故なら俺には

    果たすべき贖罪があるからだ。

    妻よりも仕事を優先し

    結果、見殺しにした。

    そんな男に

    自ずから死を選ぶ権利などない。

    俺は仕事を続けなければならない。

    「仕事が終われば向かう」。

    そう約束したのだから。

    故に、死が向こうから迎えに来るまで

    俺は仕事を続けなければならない。

    ?

    上司はグリーフケアを勧めてきた。

    違う。

    同じように苦しんでいる人が

    他にも大勢いるとか

    そういう問題じゃない。

    俺個人の問題に

    人数や他人のことなど、何の関係もない。

    俺一人の罪に、他人の許しなど必要ない。

    ある日、部長が俺を呼んだ。

    「波佐間、タイに飛んでくれ。

    通訳は向こうで手配する」

    理由は、現地法人のトラブル対応。

    俺は頷いた。

    それ以外の機能が

    すでに失われているように。

    きっと部長は

    毎日社内で陰気を四方にばら撒いている俺を

    少しでも遠ざけたいんだろう。

    もしかしたら帰って来た時

    俺の席は無くなっているかもしれないな。

    そしたらまた別の仕事を探せばいいさ。

    ?

    ?アカリ?

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    仕事が終われば【兵】

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    (お題:飛行機と出張、信頼

    私の愚行、口から出まかせ

    リストラされた中年、遠距離恋愛)

    ?

    ところが、逢坂命の実力は本物だった。

    彼女の演技はその美貌に劣らなかった。

    ルッキズムの極北にありながら

    彼女は驕らなかった。怠けなかった。

    恵まれた容姿に拘泥せず

    人一倍の努力を己に課し

    決して演技に妥協を許すことがなかった。

    逢坂は僅か数ヶ月か月足らずにして

    界隈でも屈指の実力派

    と認められるようになった。

    ひょっとしたら逢坂も

    芝居そのものが恋人なのかもしれない。

    そしてまた、俺と同じように

    性の十字架を背負いながら

    戦っているのだろうか。

    俺は逢坂に勝手に親近感を覚えた。

    そして俺と逢坂は

    必然、共に主演を張ることが多くなった。

    なんせうちの劇団の一番の売り物は

    男と女の悲恋話。

    ヒーローとヒロインのW主演は

    必要不可欠なのだ。

    人の色恋に悲憤慷慨。

    人間の本質的な好物は

    古代ギリシャから変わらない。

    俺と逢坂命は、舞台上で幾度も恋に落ち

    愛を語り合い、そして死別した。

    そのどれもが、とても充実した恋愛だった。

    逢坂とはプライベートでも

    一緒にいて居心地が良かった。

    役作りのためにデートをしたり

    お互いを語り合ったり

    そうしているうちに

    俺と逢坂の価値観は

    予想外なほどに共鳴していった。

    初めての感覚だった。

    俺はいつの間にか逢坂命に心惹かれていた。

    それは、作り物ではなかった。

    しかし、逢坂は?

    彼女の方はどうなのだろうか?確かめたい。

    もう新世界の神とかどうでもいい。

    何がミッドナイト・ゴッド・ムーンだ。

    正直、俺は限界だった。孤独だった。

    下半身はもはや曠野だった。

    俺はある日、逢坂を飲みに誘い

    ハートに火を付ける代わりに

    スピリタスを燃やし

    これを一息に飲み干した。

    その勢いで、己が偽りない気持ちを

    逢坂に余さず打ち明けた。

    唇の真ん中に焦げ目がついて

    ふざけた顔になっていた。

    逢坂はしばらく俺の顔を見て爆笑していた。

    俺は耐えた。

    緊張と恥辱で射精してしまいそうだった。

    やがて、一通り笑い終えた逢坂が

    目に涙を溜めながらも

    真っ直ぐ俺を見て言った。

    「私も全く同じ気持ちだよ」

    ?

    俺たちは程なくして自然に同棲を始め

    そして逢坂のお腹に子供ができた。

    俺はその場で逢坂にプロポーズをした。

    片膝をついて指輪を差し出た俺を見て

    彼女はまた笑った。

    そして例の如くいっぱいに涙を溜めた瞳で

    愛しそうにお腹をさすり

    「よろしくお願いします」。

    そう言って左手を差し出した。

    俺はその薬指に指輪を嵌めた。

    サイズを計るのを忘れていたので

    ブカブカだった。

    幸いにして指輪を購入した金物屋が

    サイズ直しのアフターサービスを

    行ってくれたので

    俺は破産申告せずに済んだが

    指輪がスカった時の逢坂は

    腹が捩れて、中の我が子が心配になるほど

    捧腹絶倒していた。

    このことは両家の笑い話として

    末代まで語り継がれるであろう。

    ?

    それから俺は逢坂家へ挨拶に行き

    生まれて初めての土下座をし

    ご両親にご結婚のお許しを頼んだ。

    作法もわからぬまま

    勢いで土下座した結果

    刑務所でギャングにカマを掘られている

    みたいな恰好になってしまった。

    御尊父は中々口を聞いてくれなかったが

    御母堂は好意的に接してくれた。

    というよりずっと爆笑していた。

    後で聞いた話では、御尊父も俺が帰った後で

    転げ回って爆笑していたらしい。

    やはり血は争えないものだ。

    真っ赤になった顔を両手で覆い隠しながら

    帰り道でそう思った。

    次いで劇団を辞めた。

    意外なほどあっさりしていた。

    何の躊躇も、一切の逡巡もなかった。

    俺はとっくに、芝居よりも

    余程大事な恋人を見つけていたらしい。

    一ヶ月後、俺は友人のツテを頼って

    イベント制作会社の

    サラリーマンに転職した。

    我ながら節操がないというか

    薄情というか

    いや、これは順応性が高いというのだ。

    新しい仕事には

    演劇ほどの刺激も華やかさもなかったが

    そんな毎日が

    演劇をやっていた日々の何倍も尊く感じた。

    逢坂のお腹が少し丸みを帯びてきた頃

    親族だけで小さな結婚式を挙げ

    俺たちは結婚した。

    俺も逢坂も、結婚式に

    殊更な幻想を抱いていなかったし

    披露宴などしてお互いの演劇仲間が

    身内ノリでサプライズ茶番を

    演じ始めたりしたら堪らない。

    実際、俺の演劇人生における

    推測統計から導き出された

    その可能性は極めて高かった。

    危ない危ない。

    獅子身中の虫ほど恐ろしいものはないのだ。

    ともかく、こうして私と逢坂は

    正式に夫妻となった。

    ?

    結婚式には拘らなかったがしかし

    妻は新婚旅行には拘った。

    二人の良縁のキカッケとなった恋愛舞台

    その聖地であるコーンウォールへ

    是非行きたいというのである。

    当然、俺は一も二もなく承諾した。

    夫婦としてミナックシアターで

    シェイクスピアを観劇する夜。

    なんてロマンティックなんでしょう。

    そんな素敵な夜が

    この世にあっていいのかしら。

    是非行こう。是が非でも行こう。

    善は急げ。旅行するなら

    妻のお腹がまだ大人しい時分に限る。

    俺はすぐに旅行会社に掛け合い

    なんとか駄々を捏ねて

    二週間後に出立予定の

    パッケージを取ることに成功した。

    これを逃せば夏休み・GWの

    繁忙期に入ってしまうところだ。

    俺は何て賢い旦那なんだろう。

    生まれる時代が違えば

    かの名将スキピオ・アフリカヌスとも

    互角に渡り合ったに違いない。

    その時はハンニバル・バルカの仇を

    俺が討とう。

    俺は今は亡きカルタゴの地へ向かって

    勝手にパラレルな誓いを立てた。

    ?

    ?アカリ?

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    仕事が終われば【臨】

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    (お題:飛行機と出張、信頼

    私の愚行、口から出まかせ

    リストラされた中年、遠距離恋愛)


    ――だから男は

    今日も生きてしまっている。

    ?

    五年前、妻が死んだ。旅行中の飛行機事故。

    それ以来、俺の世界から色が消えた。

    ?

    俺は昔、ある劇団に所属していた。

    自慢じゃないが

    当時の俺はめっちゃモテた。

    俺はいわゆる看板役者だった。

    ある日、新しい劇団員が入ってきた。

    逢坂命(おうさかみこと)。

    美貌の人であった。

    古語で言うところの

    超マブいスケであった。

    入団初日から、何人もの朋友が彼女に挑み

    そして散っていった。

    この一文に劇団の悪いところが

    全て詰まっている。

    それにしても逢坂はモテた。異常にモテた。

    そのせいで、しばらく劇団員たちが

    猿にしか見えなかった。

    しかし逢坂は

    どの猿にも靡くことはなかった。

    俺はというと

    何のアクションも起さなかった。

    その頃の俺は、芝居が恋人だったからだ。

    何て言うと恰好が良いように聞こえるが

    先に言ったように俺はモテた。

    逢坂ほどではないが、激烈にモテていた。

    それで最初のうちは何人かの女優と

    付き合ってみたりしたんだが

    これが全然楽しくない。

    リアリティがないというか

    何もかもが恋愛という

    ルールの上の作り事って感じで

    身が入らずクニャクニャになった。

    そんなことで

    俺の恋愛は長く続いた試しがない。

    だが下半身の事情は別だ。

    なんせ俺は空前絶後にモテた。

    モテたもんだから

    毎日のように女優からの

    誘惑・お誘いがあった。

    そのせいで俺は日々

    俺の中の俺と戦い続けていた。

    ?

    「ワンナイトくらい良いじゃないの」

    「ダメだ。一回そんな味を覚えたら

    お前、絶対猿化するぞ」

    「猿化して何が悪い。

    サイヤ人だって猿になったら

    戦闘力十倍なんだぞ」

    「お前の場合は悪評が十倍になるってんだ」

    「なんでだよ。女遊びも芸の肥やしって

    昔のエロイ人

    もといエライ人も言ってたじゃないか」

    「お前は上方の落語家じゃないんだ。

    お前がヤリチンになったらどうなる?

    女たちからの評価はダダ下がり。

    具体的には『二度と近寄るな不可触民』

    くらいに蔑まれることになる」

    「ええ、マジで?」

    「マジだ。

    劇団女のネットワークを甘く見るな。

    そうなるとキャスティングもされなくなる。

    この界隈での出世は絶望的だ。

    お前は残りの俳優人生を

    棒に振ってもいいのか?」

    「俺が下の棒を振ると

    人生の棒も振ることになるっていうのか」

    「そうだ。人生はチンコだ。

    三回振ったらもうアウトと思え」

    「じゃあ俺は一体どうすればいいんだ?

    こんなにモテてるってのに

    このモテ期を

    みすみす棒に振れっていうのか?」

    「棒を振ったら

    そのモテ期も一瞬でなくなって

    不可触民にまで堕ちるっつってんだよ」

    「モテ期は棒に振っていいのに

    なんで他の棒は振っちゃいけないんだよ」

    「モテ期なんてものは

    人生やチンコに比べりゃ

    ないのと同じだからだよ」

    「ご無体な。

    盛りの付いた健康優良児に対して

    あんまりな仕打ちじゃないか」

    「待て。一回抜いてから考えてみろ。

    お前には女より

    ずっと信頼できる相棒がそこにいるだろう」

    「そんな。

    右手とお友達になれっていうのか。

    寄生獣じゃないんだぞ」

    「右手を使いこなせばお前は夜の神になり

    その人生は月光の如く輝くだろう。

    お前の右手はミギーじゃない。

    いうなれば夜の神の月」

    「キラじゃねぇかよ」

    「俺よ、新世界の神になれ」

    ?

    オレオレ戦役を制したのは

    神の座を狙う俺だった。

    俺は一発抜いて考えた。

    そして決めた。

    俺は新世界の神になる。

    こんなところで終わってたまるか。

    それからの俺は偉かった。

    来る日も来る日も手淫に明け暮れた。

    誘惑を感じたらば

    すぐにトイレに駆け込み、これを治めた。

    俺は新世界の神になる。

    俺の右手は神の右手だ。

    ミッドナイト・ゴッド・ムーンだ。

    そう自分に言い聞かせつつ

    俺は悲しかった。

    俺は俺が可哀想でならなかった。

    俺はこんなにモテているのに

    そこいらの醜男以下の青春を送っている。

    しかし仕方がない。

    これは必要な犠牲なのだ。

    耶蘇は十字架の重みを背負って神となった。

    ならば我もまた

    性なる十字架を背負ってそれに倣わん。

    ザーメン。

    ?

    まあしかし、劣情を抜きにしてみれば

    舞台上の恋愛の方が

    よっぽど心動くものがあるのだ。

    俺には、作り事の世界の方が

    性にあっているのだ。

    神となった暁には、この作り事の世界を

    本物と挿げ替えてやろう。

    令和の山中鹿之助とは俺のことよ。

    嗚呼、我に七難八苦を与えたまえ。

    我が他に誰がこんな苦行を

    耐え忍ぶことができようか。

    はは。誰もできやしない。

    愚かな猿どもめ。

    どうせあの逢坂命も

    日々寄る波に呑まれて溺れるに違いない。

    見た目だけで演出家に気に入られて

    良い役もらったってなぁ

    結局はその場限りのハッタリなんだよ。

    容姿しか武器のない井の中の姫君たちは

    皆そうして諦めて田舎に帰っていくのさ。

    又は更に枕に磨きをかけるかだ。

    どっちにしろ、本質的な出世とは程遠い。

    雄猿も雌猿も大した差はないわね。

    ホホホ。

    ?

    ?アカリ?

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    罰の配達人(お題:罪と罰)【結】

    ?

    ああ、もうババア、ハンコ押しちゃったよ。

    どうしよ。マジで万事休す。

    何か、何かないか…。

    「…ん?あれ?ここの箇所

    すみません

    ちょっと訂正お願いしたいんですが…

    どうも、手持ちのボールペンが…」

    「はい?どうしました?」

    「いえ、ボールペンのインクが

    切れてしまったようでして…

    なにせ急いで出てきて

    持ち合わせがこの一本しかなくて…」

    「ああ、はいはい。ボールペンですか。

    確か寝室に…ちょっと待っててくださいね」

    …ボールペン冷蔵庫の脇にないんかい!

    …はぁ。とはいえ助かった。

    何という僥倖。

    やはり奇人に奇策あり。されど隙また多し。

    というのは俺がたった今

    即席で拵えた故事成語もどきであるが

    こういうのMCバトルで言ったら

    出典不明でも湧くかなぁ。

    って、そんなことを言ってる場合じゃない。

    暴力抜きのヒップホップなんて

    クソ喰らえだ。ノーモア非暴力。

    そんなことを思いながらも

    俺の手はオートで

    カードをすり替える動きをしていた。

    ?

    「それじゃあ

    どうもお手数おかけしました。

    進捗は追って

    こちらからご連絡いたしますので」

    「はいはい。よろしくお願いしますね。

    しかし物騒な世の中になりましたね。

    どこで何が悪用されるかわからないわ」

    まさに目の前で

    おそらくあなたの人生一の

    悪用がなされようとしています。

    そう心で呟いて、俺はババア宅を去った。

    ?

    公園のトイレで銀行員の扮装を解いて

    その服を手持ちの鞄に突っ込んだ。

    予め下に来ていたユニクロのスウェットと

    ジーパン上下になった俺は

    その足でダシコとの

    待ち合わせ場所に向かった。

    何でもそのダシコは

    広告代理店のサラリーマンらしい。

    なんだってそんな正業の人間が

    ダシコなんかやるんだ?

    むず痒い感情が心中に起こった。

    それは約束のコンビニ前に着いてからも

    収まらなかった。

    男は浅野谷と名乗った。

    神田の老舗蕎麦屋みたいな名前しやがって。

    ムカつく。

    なんでだ?

    何で俺は初対面のこの男に

    ムカついているんだ?

    よくわからんが

    思えば出かけに西澤から

    この男のことを聞いてから

    俺はずっとこいつに

    ムカつき続けている気がする。

    「このカードでそこのATMから

    残高全額引き出しておいてくれ」

    俺はそう言って浅野谷にカードを手渡した。

    それからそのまま反対側の出口へ向かい

    浅野谷をほったらかして

    西澤の雑居ビルに直帰した。

    ?

    「しくじった」

    「ああ。聞いたよ。

    彼、今頃

    頑張って走って逃げてるんじゃないかな」

    「地獄へ向かってか?」

    「まあ、どうしたってそうなるね。

    しかし珍しいな。

    相川くんが失敗するなんて」

    「ダシコの罪が

    こっちまで波及してきたんだよ」

    「君がいつも言ってるやつ?

    無知は罪だって。

    でもその罪を被るのは

    そいつのみとも言ってなかった?」

    「ああ。だからあいつのは

    罪じゃなくて罰だな」

    「誰からの?」

    俺からの。と言おうとして止めた。

    浅野谷が失敗するのは必然だった。

    何故なら、俺はババアの家で

    カードをすり替えなかった。

    つまり、あいつに渡したカードは替え玉。

    100パーセント監獄行きの片道切符だった。

    「西澤。前にお前

    安全圏にいる温い自分なんて

    罰を受けるべきだ。

    みたいなこと言ってなかったか?」

    「ん?そんなこと言ってた俺?

    …まあ俺の言いそうなことではあるような

    ないような」

    「そんで俺なんてさ

    罰を受ける前提で生きてるわけよ。

    俺は近い将来、兄貴を⚫︎すわけだからな」

    「ああ、それやっぱ本気なんだ。

    止めないけどさ。意味なく怖いから」

    「だから俺は思うんだ。

    あいつが被ったのは罪じゃないって」

    「罪じゃないなら何なのさ」

    「まともな人間の分際で

    こっちの世界に足を突っ込んだ。

    その天罰かな」

    ?

    言って相川はソファに仰向けに寝転がった。

    真昼間でも暗く沈黙している

    蛍光灯の錆びた色が

    瞼の裏に包まれて消えた。

    ?

    ?アカリ?

    ?

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    罰の配達人(お題:罪と罰)【転】

    ?

    ?

    「カードの再発行のため、こちらの書類に

    口座番号の記載をお願いします」

    「ああ、はい。ここに書けばいいのね」

    今のところカケコは成功している。

    そして俺がここにいる時点で

    通報もされていない。

    もしここでバレても

    即トンズラすれば足がつくことはまずない。

    イージーゲームだ。

    「ああ、それから口座番号の最期の4桁。

    そこは暗証番号記入でお願いします」

    「え?そうなの?」

    「再発行手続きの上で

    必要な確認事項ですので」

    「ああ、そうなの。はいはい」

    クリア。この手口は意外に優秀だ。

    最初は俺も、そんなにホイホイ暗証番号を

    漏らす馬鹿がいるものかと訝った。

    ところが蓋を開けてみれば

    今のところ打率10割である。

    人間ってのは、ルールの前に盲目になる。

    こういう規約なので。

    こういうルールなので。

    そう聞いた瞬間に

    自分の頭で考えるのを辞めてしまう。

    目の前にレールが敷かれれば

    とりあえずそこから

    はみ出ないことが目的になる。

    何時何処で誰が敷いた

    レールかもよくわからないまま。

    社会全体がそうだ。

    ましてや、レールから外れずに

    安穏と生きてきた

    この手の富裕層ジジババは

    手続きというルールを目の前に翳された瞬間

    従順な子羊に成り下がる。

    あとは俺が犬のように

    その羊を奈落へと追い立てればいい。

    でもそしたら

    羊飼いは西澤ってことになるのか。

    ムカつくな。まあいい。

    せいぜい飼い犬に手を噛まれないよう

    上手く笛を吹いてもらおうじゃないの。

    …と、ババアが記入を終えたようだ。

    「うん…うん…はい。

    ご確認させていただきました。

    ではその、カードの方は後日発行し

    郵送させていただきますので

    最期に、ここに

    ご捺印をお願いできますか?」

    「ああ、ええ。そこの冷蔵庫に…」

    ?

    …冷蔵庫!?

    ヤバい。思わぬピンチ。

    大体のジジババは

    ハンコを別の部屋まで取りに行く。

    少なくとも今まで応接室や居間に

    ハンコを置いていた輩などいなかった。

    しかしてこのババアは、あろうことか

    すぐ後ろの冷蔵庫脇の小物入れに

    このハンコ大国ニッポンにおいて

    最重要機密道具である

    ハンコを入れているのである。

    なんたる不用心か。

    いや、この場合においてはその例外的奇行が

    豈図らず俺の急所にヒットしているのだが。

    ううむ。どうしよう。

    困った。マジで困った。

    目の前に獲物のカードがあるにも関わらず

    これではすり替えることができない。

    何とかしてババアに隙を作らせなければ。

    「あ、ハンコそんなところに

    置かれてるんですか。不用心ですよ。

    気を付けてくださいね」

    「ええ、確かに言われてみれば…

    あれ、どこにいったかな?」

    「ひょっとしてアレじゃないですか?

    用心を見越して

    ご主人が別のお部屋に持っていったとか…」

    「いえ、ありました。

    ちょっと奥の方に入ってたものですから」

    「ああ、はい。そうですか」

    ババアはそれから間を置かず

    ハンコを持って席に着いた。

    「あ~…ではこちらの方にご捺印を…

    朱肉ってございますか?」

    「え?そちらで

    ご準備してくださってないんですか?」

    「申し訳ございません。

    なにせ突然の急命で

    取る物も取り敢えず…」

    「ああ、そうでしたか。

    はいはい、待ってくださいね。

    朱肉も冷蔵庫のところに…」

    …チッ!俺は内心で舌打ちした。

    まあそりゃそうか。

    ハンコと朱肉を

    別々の場所に置く方がどうかしている。

    ?

    ?アカリ?

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    罰の配達人(お題:罪と罰)【承】

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    兄貴はハッパのプランターを

    勝手に俺の家で栽培して捕まった。

    俺が女の家を泊まり歩いている

    最中のことだった。

    俺は全く事情を知らなかったが

    突然、信号待ちの車をノックされ

    そのまま逮捕された。

    しかし俺は取り調べで何も吐かなかった。

    大麻取締法違反。

    その栽培ともなると罪は重い。

    そこに暴対法が乗っかると凄い刑期になる。

    幸いにして兄貴は組での重労働に

    嫌気が差して逃走。

    名簿からは除籍されていたが

    それでも7~8年は出てこれない。

    俺は少しでも兄貴の刑を軽くするために

    塀の中から色々と鳩を飛ばした。

    ある日、担当刑事が言った。

    「お前の兄貴は

    全部お前がやったって吐いてるぞ」

    俺は我が耳を疑った。

    しかし目の前には供述資料がある。

    兄貴は俺を裏切った。

    俺は兄貴を庇うのを辞めた。

    全て本当のことを話した。

    だが実際、警察は最初から裏が取れていた。

    俺がやっていないこともわかっていた。

    全ては兄貴を完全に堕とすため。

    そのために俺の証言が必要だった。

    俺はまんまと警察の思い通りに

    動いてやったというわけだ。

    だがそんなことはどうでもよかった。

    間もなくして出所した後も

    俺は兄貴のことが許せなかった。

    あと6年後…7年後…

    出て来たその時に、必ず⚫︎す。

    ケジメも何もなしに

    不義理を踏み倒したままの兄貴には

    どうせ組からの追手がかかるだろう。

    その前に⚫︎す。そう決めた。

    ?

    「6割だ」

    「へ?」

    西澤が間の抜けたような声を出す。

    「リスクを背負うのは俺だ。

    最低でも6割じゃなきゃ納得しない」

    「いやいや、流石にそれは横柄でしょうよ」

    「だったら土下座しろ」

    「…え?なんで?」

    「さっきのお前の発言を俺は許さない。

    撤回もさせない。帳消しにしたいなら6割。

    それが嫌なら土下座して俺の靴を舐めろ」

    「あ~…いやはや、参ったね」

    西澤は困ったように頭を掻いて

    再びガラス管を炙った。

    それからまた大きく仰向けに

    紫煙を吐き出した。

    「わかった。わかった。わかりましたよ。

    全く口は災いの元だね」

    「自分の商売道具を悪く言うなよ」

    俺は部屋に入って

    初めてリラックスした調子で表情を緩めた。

    「自分で言うのもなんだが

    俺は完璧主義だ。

    プレイヤーとしての仕事は

    完遂すると約束するよ」

    「そりゃ頼もしいことで」

    西澤は弛緩したような口調でそういうと

    元のようにテレビに向きなおった。

    「お前、そんなに鬼平犯科帳好きなの?」

    「いや、嫌いだよ。正義の顔をした暴力。

    全く嫌になるね」

    「じゃあ何で見るんだよ」

    「俺さ、捕まった事ないんだよね」

    「そうなのか」

    「そうだよ。

    マエがないから海外でトバシ作って

    仕入れたりしやすいわけ。

    でも相川くんが言うみたいにさ

    やっぱ安全圏にいて、労力もリスクも

    テレアポと変わんないようなことやって

    それでブラックの世界にいる自分って

    やっぱなんか温いなぁ

    とか思ったりするわけ」

    「まあ、そりゃあ、うん。そうかもな」

    「でもさ、これ見てると

    俺みたいな温い奴が

    容赦なく鬼平に捕まんの。

    ざまあねぇなぁって。

    ひょっとしてこれ、俺の代わりに

    捕まってくれてんのかもなぁって。

    そんでいつか俺も、公金で

    悪党狩ってるだけの公安ヤクザに捕まって

    ざまあねぇことになったら

    少しはこいつらの

    気持ちがわかんのかなぁって」

    「ふ~ん。

    でもお前みたいな温い奴がいないと

    仕入れ役がいなくなって困るんだからさ。

    結局は適材適所だよ。

    そりゃ

    お前は良いご身分で羨ましいけどな。

    世の中の役回りなんてくじ運だから。

    仕方ないよな」

    「あらお優しい。いや嫌味か。

    しかしムカつくよな、鬼平犯科帳」

    「俺は二課刑班課長の方がムカつくけどな」

    「うまいこと言うね。

    相川くん、MCバトルとか出てみたら?

    向いてるかもよ」

    「手出していいなら考えとくよ」

    ?

    あれから西澤の仕事を20回以上受けたが

    今のところ一度も失敗はない。

    何せ相手は世間ずれした年寄りだ。

    世の中のことなどまるでわかっていない。

    馬鹿な家出少女と同じだ。

    彼女たちはカップ麺1個の報酬で

    体を売られる。

    それがとても理不尽なことだとは考えない。

    何故なら何が理不尽かを知らないから。

    「無知は罪」というが

    その罪を被るのは、そいつのみだ。

    だから俺的には

    どんどん無知の罪が増えてくれると助かる。

    みんなで広げよう白痴の輪。

    それはとてもとても綺麗な白に違いない。

    ?

    ?アカリ?

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