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アカリ(21)
T164 B88(E) W56 H87

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お題:異世界転生・歴史探訪
嘘つき同士の友情・最期の晩餐
希望と空虚・臆病者
据え膳食わぬは男の恥
正解と正しいは違う
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神殿内に、大祭司カヤパの姿はなかった。
どさくさに紛れて逃げたのか。隠れたのか。
いずれにせよ、ここはすでに
ヤツのものではなくなったというわけだ。
「さあ主よ。神の国へ我らをお導きください」
絵守が私を肘で小突きつつ
連行するみたいに
祭壇に連なる白い石段の上へ
半ば無理やり立たせた。
なるほど、確かにここは見晴らしが良い。
前庭を埋めた群衆の顔が
波のようにこちらへ向いている。
幾千幾万の目玉が
いっせいに私という一点へ縫いつけられている。
家系ラーメンの暖簾めいた顔は
内側から麺のようにふやけ
藤原道長やルイ14世の魂も
何処かへと吹き飛んだ。
望月は兎の杵の一撃で砕けた。
私の腰も砕けた。
もう背筋はクニャクニャだ。
嗚呼、ヴェルサイユが燃えている。
私はこんな場所に立つべき人間ではない。
どちらかと言うと芸能人の謝罪会見を見て
「言葉に誠意がねぇんだよな~」
とか一日三食のカップ麺を啜りながら
画面に向かって汁を飛ばす側である。
そんな私が一万人の命運を背負って
演説を打つ。何をご冗談を。
人には持って生まれた器
と言うものがあると言ったでしょう。
私の器はねぇ
自慢じゃないがお猪口ですよ。
そんなお猪口に一万本のワインを
灌いでごらんなさい。
お座敷が海になりますよ。
舞妓も幇間も溺死ですよ。
女将が発狂して番頭と駆け落ちして
鬼平に取っ捕まって白砂の上で
桜吹雪自慢されて
結局は山田浅右衛門の刀の錆ですよ。
嗚呼、浅右衛門さん。
あたいの肝を立派な薬にして
病床のおとっつぁんに
届けておくんなさいまし。
後生です。
それが女将の最期の言葉であった。
浅右衛門は人情で以て
この約束を果たそうとしたが
女将のおとっつぁんは行方知れず。
浅右衛門は江戸を出てまで
方々を探し回った。
そしてゴビ砂漠中央まで来て
水が尽きた浅右衛門。
もはやこれまでと命尽き果てる寸前の
浅右衛門の前に夢か現か薬師如来。
「汝が秘薬を試してみよ」。
とは、女将の肝の妙薬のこと。
これも如来の思し召し。
一飲み口内納めたり。
浅右衛門が波打てば、観音菩薩に早変わり。
菩薩は私に語り掛ける
「賽の目に羞恥の概念はありません。
ですからあなたの厄災に頓着しない。
嗚呼、なんと憐れな筆山よ。
三千世界の果ての果て。
私が救って差し上げよう。
解脱の救済ここにあり。
涅槃で虚無へと帰りましょう」。
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「おい。何を呆けている。
しっかりしろ。胸を張れ」
絵守が隣で見えない角度から
脊椎の急所を突いてくる。
人が現実逃避の先に
解脱の救済を得る寸前だったというのに
なんて厭らしいヤツだ。
タクラマカン砂漠で干物になって
性悪女がそれを四寸ずつに切ったのを
干し魚だと嘘ついて売って
そんな女は羅生門でババアに引剥ぎされて
そんなババアも下人に引剥ぎされて
そんな下人は行方知れずになっちまえ。
全くどいつもこいつも。
おらぁもう人間が信じられねぇ。
ってこれは黒澤明監督の方の羅生門だった。
結局私の思考は藪の中だ。
「おらぁ、おらぁもう己が信じられねぇ」
「なんだ怖気付いたのか?
こんなものよりキツイ修羅場を
潜ってきたはずだろ」
「んだども、おらぁ注目されっつごどに
からきし慣れてねんだしゃあねぇがら」
私は限界だった。
今まで逃げ続けてきた
ツケが回ってきたのか。
まさか此処へきて己の引き籠り根性が
マックスで発揮されようとは思わなかった。
考えてみれば私は今生でも
こちらへ来てからも
尊敬されるということが全くなかった。
つまり私は尊敬されることに
免疫が皆無なのだ。
ましてや信仰されるなど論外だ。
「それでそんな
東北弁になってしまってるのか」
「へぇ。ほんに
めんぼくねぇごどでございますだ」
「仕方がないな。船場吉兆でいくか」
「そいづぁ、どういう意味でございましょうが?」
「まずその東北弁を辞めろ」
「へぇ」
「そして今から僕が囁いた通りに喋れ」
「そいづぁあの、あんたさ
囁き女将さなるっつごどで
ございましょうが?」
「良いからさっさと標準語に戻れ。
あと顎を上げろ。王は下を向かない」
そう言うと絵守は影のように
私の後ろに回り込んだ。
私は、とりあえず
顎だけを不自然に持ち上げた。
寝違えた人が必死に
首の位置を戻そうとするような感じだった。
私がグダグダとしている間も
依然として神殿は静まり返ったままでいた。
ついさっきまで石礫やら怒号やら
血潮やらで煮え返っていたこの場所が
不気味なほどの沈黙に包まれている。
彼らは待っている。
何か決定的な言葉が
発せられるのを待っている。
息を潜めて、神が何を言うかを待っている。
一万の目が
一万の願いを込めて私を見ている。
その先には
どうしようもない私が歩いている。
否。突っ立っている。
ダメだ。
思考が自由律俳句に逃げようとする。
私が種田山頭火のような
豪気な性格ならよかったのに。
どうして尾崎放哉のような
偏屈甘ったれの方を引いてしまったんだ。
障子を開けてみれば何もない。
嗚呼、本当に何もない。頭が真っ白だ。
私という人間は空っぽだ。
空虚だ。
言葉使いの癖に
言葉が出てこないんじゃ廃業だ。
何が文人だ。
文鎮の重みにも劣る文句しか書けない癖に。
嗚呼、私が私を苛んでいく。
ネガティヴレインボーが
空に汚らしくかかって天を辱めている。
全身から汗が吹き出す。
指先が震える。なんか頭痛までしてきた。
足元がふらつきそうだ。
そして相も変わらず胃が痛い。
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?アカリ?
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