
今回は、吉村昭『羆嵐(くまあらし)』
大正4年12月の北海道三毛別で起きた、わずか2日間で6人がヒグマの犠牲となった『三毛別羆事件』を描いた作品です。
小説なのですが、徹底的な取材を元に書かれているので、限りなくルポルタージュに近いのではないかなと。
問題のヒグマの恐ろしさはいろんなところで語られているので、ここで書くまでもないかなと思うのですが、被害者女性の遺体を回収した時の「おっかあが、少しになっている」というセリフに戦慄しました。
使われている言葉はごく普通のものなのに、なんという破壊力…。
この作品が魅力的なのは、ヒグマの恐ろしさだけではなく、「人間」の姿が描かれているところ。
日常と親しい人々の命を奪われ怯えと絶望の中にいる集落の住民達、住民を守るため苦悩しながらも様々な決断を下していく区長、意気揚々と救援に来たはずがヒグマの恐怖に呑まれていく人々、いろいろな想いを抱えてヒグマと対峙してきたであろう老猟師。
それぞれの姿が、とても読み応えがあるのですよね。
また、老猟師がヒグマを仕留める場面が、静かに淡々と描かれているのも印象深い。
その場の張り詰めた空気を感じるようでした。
『三毛別羆事件』は有名なので、事件の恐ろしさについてはご存知の方も多いと思いますが、その土地で生きなければならない人々の「ドラマ」は非常に読み応えがあるので、オススメです。
そうそう、明日からの3連休、山に行くという方もいらっしゃるかと思いますが、クマには充分にお気をつけください。
ツキノワグマもめちゃくちゃ怖いですからね…。