精密デザインナイフを

画用紙になめらかに滑らしていく

白黒の世界に線を引いて

切り取られた下絵が浮き上がってくる

ナイフの切れに見惚れた

角もカーブも思うように切れて

骨組みが完成していく様は何度見てもいい

無心になれる

そこから出来上がった世界に

セロハンを貼り付けてステンドグラス風に

あるいは写し絵、刷り絵にしても良い

もし自分に体力があれば

彫刻をやりたかった

今はせいぜい歌舞伎のお面くらいだ

張子ならいくらでも作れるが

彫刻は難しい

静かに集中してると

頭の中がだんだんと整理されていく

普段後回しにしていた問題を片付けて

デザインナイフで切り分けてゆく

地味に、丁寧に、慎重に

悲しいことに

人生の大半を失ってから気づく事がある

無知は罪だ

だが時間は戻せないし、戻る気もない

ふと肉の切れない包丁を思い出した

何度引いても切れない包丁は精神的に

良くない

買い換えるべきか研ぐべきか…

包丁を研ぐには

水をかけて包丁を研ぎ石に滑らしていく

ぷんと鉄臭い匂いがして

指先に染みつく

研ぐと刃先にシャボン玉の油膜のような

模様が浮き出てきて綺麗だ

うっとり見つめてしまう

その様子が山姥のように

見えるだろうと思ったら笑いが漏れた

夜中に1人包丁を研ぐ

研ぎ石はサンドペーパーみたいに

種類があって仕上げの研ぎ石は

化石掘りの岩盤並みに柔らかい

磨き方によっては

紙はよく切れても

肉の切れがイマイチな時がある

薄く鋭く研ぎすぎても良くない

刃こぼれの原因になるし

切ると刃先が引っかかってしまう

あぁ楽しいな、研ぎたくなってきた

研いだら切ってみたくなる

羊たちの沈黙のレクター博士も

切り裂きジャックも

切れ味の良いものは好きだろう

だが骨は叩き割るしかないので

強い力のない自分には難しい

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