
図書館でふと手に取った歴史書に、モンゴル帝国の章があった。
ページをめくるごとに、乾いた風が吹き抜けていくような気がした。
チンギス・ハンが率いた遊牧の民たちは都市も国境も超えて、ただ前へと進んだ。
馬の背に揺られながら、ときに容赦なく、ときに不思議なほど寛容に、帝国を広げていった。
その行軍の跡に戦火もあれば、交易と共存もあったことが、印象に残る。
どれほどの文明がつながり、交じり合い、それぞれの言葉で空を見上げたのだろう。
「征服」と「交流」が背中合わせであった時代。
モンゴルの草原から海へと至る道は、剣とともに知識や技術を運んでいたのだという。
現代の国境や壁を思えば、その広がりの自由さは、どこか夢のようだ。
草原に育った言葉は、風に似ている。
広く、速く、だれかの耳に届くまで、静かに待っている。
いつか、自分の足でモンゴルの地に立ってみたい。
そこで吹く風が何を語るのか、その静かな声に耳をすませてみたいと思った。