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忘れられない女がいる
ボサボサ頭で毛虫のような眉
授業中に我慢できず
よくお漏らしをした
およそ成績も人付き合いも
うだつが上がらず
履き古した上履きは
新しいものを買ってもらえないのか
ゴムはヨレヨレでネズミ色
気の強い女の子達に
からかわれ、バイ菌扱いされては
耐えるようにうつむいていた
気の強い女の子達の中に1人
PTA会長の娘がいて
事あるごとに
「コイツにだけは負けないから」
とさかしらに笑われて
こんな事も分からないのかと
様々な授業のたび
今でいうマウントをとられていた
その度に顔を赤くして
PTA会長の娘に教科書や筆箱を投げつけ
PTA会長の娘は髪や服を掴んで
大乱闘騒ぎに発展するので
誰しもが同情や
憐れみを持つ対象ではなく
先生も手をこまねいていたのを覚えている
そうして事件は起きた
あれは冬の長距離走だった
例のごとく
コイツなんかと同じにしないでと
邪険に扱われながら
長距離走がスタートした
この日に向けて練習したのだと
初めから勢いをつけて
PTA会長の娘は群を抜けていく
その後ろで
ボテボテと中間から少し後ろを
いつものネズミ色の上履きを履いた
女がもっさりと走っていた
周りから早い早い!
頑張ってー頑張れーと
PTA会長の娘が声援を受けて
期待に応えるよう手を振ったり
顔を赤くして走っていた
全ては日常の予定調和のように
だがPTA会長の娘の顎が上がり
苦しそうにペースが落ちるのと対照的に
ネズミ色の上履きを履いた女が
徐々にペースを上げて
1人抜き、2人抜き、気づいたら
PTA会長の娘の後ろを走っている
意地かプライドか
底力を振りしきるように
PTA会長の娘が走るペースを更に上げるも
走るゾンビのような格好で
ネズミ色の上履きを履いた女が
地滑りみたいな低い声を出し
力強い足でPTA会長の娘を追い抜いた
誰一人として応援してなかった
誰しも予想すらしなかった
「ぐおおおおお」と野太い声で
畑に向かう耕運機のように
走る姿は決して美しくなかったのに
声援は止んで
静かに、けれども
皆が彼女に魅了された
ネズミ色の上履きを履いた女は
その後も先頭を走る集団に近づき
そこで始めて担任が頑張れ!と叫んだ
イジメられる姿を見ても
授業中にトイレを行きたそうに
ソワソワしていても
見ぬふりしていた担任だのに
10何位もの大差をつけ
ネズミ色の上履きを履いた女は
PTA会長の娘を負かし
「やった!やった!ざまあみろ!!!」
と声高に叫んだ
鬱憤を晴らすかのような魂の叫びだった
さすがに先生はたしなめて
PTA会長の娘は悔し泣きをし
周りが非難した
それでもネズミ色の上履きを履いた女は
へこたれるどころか
最高の笑顔で輝いていた
「練習して負けたとかダッセえ!!」
「アタシお前より上だから!!」
生え替わりのスカスカの歯並びをむき出し
ざまあみろと叫ぶ口角の泡を飛ばして
人形浄瑠璃の鬼の顔も
かくやと思うほどの醜女の面構えで
真に勝ち取る強さを
まざまざと見せつけたのだ
最高にみっともない悪口を吐き
最高に格好良くてしびれた
あのネズミ色の上履きを履いた女は
初めから諦めたりせず
人生とは面白いものだと
血湧き肉踊る楽しさを教えてくれた
木曜日出勤します
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