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――プレゼントを渡した後のひと口は
なんだか特別な咀嚼だった気がする。
マクドナルドである。
いや、ただのマックではない。
貸し切りのマックだ。
しかも理由が
バースデーパーティだというのだから
これはもう
戦争に弁当を持っていった
ようなものだった。
主役は、私の友人である。
お嬢様然とした風貌の
いや実際お嬢様なのだが
とにかく私とは別世界の生き物だった。
笑顔に角度があり、姿勢に芯があり
靴が高そうで、服が高く
声が通り、返事が早い。
あれほど絵に描いたように
「堂々」とした人間を、私は他に知らない。
そんな彼女が
マックをまるごと貸し切ったのだ。
ドナルドの人形すらちょっと
よそいきの顔をしていた気がする。
壁に「HAPPY BIRTHDAY!」の装飾。
紙の王冠。BGM。全部そろっていた。
まるで夢の国である。
私の家では、誕生日といえば家族だけ。
母がケーキを切って
父が「おめでとう」と一言。
それが全てだった。
だから私は
この華やかすぎるマックを前にして
完全に「モブ」として
すみっこにモジモジしていた。
すみっこの椅子にちょこんと座って
マックの紙ナプキンを
折りたたんだりしていた。
図書館では主役になれるけど
マックの貸し切りでは
私はただの見物人だ。
でも、嫌ではなかった。
どこか、ほんの少しだけ
憧れながらも安心して見ていられる
そういう光景だった。
彼女は、中央にどっしりと鎮座し
プレゼントを受け取るたびに
満面の笑みを見せていた。
その笑顔が
まるで生まれながらにして舞台女優のようで
私は小声で「すごい…」と呟いていた。
図書館に入り浸って
本を開いてばかりいた自分からすれば
彼女は人間ではなく
たとえば物語の中にしか存在しない
「ヒロイン」のようだった。
そんな私にも
プレゼントの順番が回ってきた。
えっ。と思った。
みんなカラフルな袋を抱えている。
私は、地元の文房具屋で買った
小さなノートと
ちょっといいシャープペンを
むき出しのまま持ってきていた。
包装すらしていない。
まるで、お年玉の渡し忘れを思い出して
あわてて封筒から札を出した
おばさんのような心境で
私は「はい」と言った。
彼女は、それを見て、何の疑問も抱かず
まるで宝石でも受け取ったかのように、
満面の笑みで「ありがとう」と言った。
嘘じゃなく、本当に、嬉しそうだった。
その瞬間、私は思ったのだ。
ああ、こういう女になりたい、と。
物怖じせず、誰に対しても笑顔で
堂々としていて、けれど
ちゃんと人の気持ちを受け取れる
そういう人に。
無理かもしれないけど
なれたらいいなと思った。
私はその気持ちを隠すように
目の前のポテトをひとつ
もぐもぐと頬張った。
塩加減がちょうどよかった。
?アカリ?
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