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アラビアンナイト 川崎 / ソープ

8:30~翌0:00

当日予約8:00~

神奈川県川崎市川崎区堀之内町13-8

JR川崎駅/京急川崎駅 ※送迎車ご用意致しております。

入浴料 11022,000円~

利用可能カード:VISA、MASTER

044-233-4152

※お電話の際に「ビンビンで見た」とお伝えください

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アカリの写メ動画一覧

アカリ(22)

アカリ(22)

T164 B90(E) W58 H89

  • 投稿日時

    触れてはならぬもの

    ――逃げてゆく希望と、

    追わずにはいられない孤独。

    桜が、どうにも無遠慮に咲き誇っていた。

    こちらの心の鬱屈など

    知ったことかとでもいうように、

    けたたましく春を謳っている。

    何となく、

    真正面から見ることが野暮に感じて、

    私は桜からやや目を逸らしながら、

    河川敷をヒタヒタと散歩して歩いた。

    横を見やると、

    カモメと鳩が、悠然と佇んでいる。

    あたかもこの世に敵など

    一羽もおらぬかのような傲慢さだ。

    まったく、春という季節は、

    生き物すらも図々しくするらしい。

    青い帽子を被った保育児童たちが、

    歓声を上げながら駆け回っていた。

    そのあいだを、

    私は冷静を装ったまま抜けてゆく。

    極端な純粋に囲まれると、

    私の不純が浮き彫りになりそうな

    居心地の悪さが、どうしても出てくる。

    保育士らしき女性が一人、

    柔らかく尋常な態度で

    子供らを見守っていた。

    ふと、目が合いそうになった。

    私はとっさに視線を逸らす。

    人目というのは、面倒なもので、

    純粋を束ねるこの女性も、

    彷徨える魂を導く魔導士の如く思えた。

    児童たちを前に己が幼少を懐かしみ、

    若干、迷える子羊然としていた私は、

    羊飼いの眼差し一刺しに、

    全てを見透かされるような魔力を感じて、

    瞬間、これを忌避した。

    河川敷は、小春日和である。

    春の陽は柔らかく、風は少しばかり生温い。

    走ろうとは思わなかった。

    ただ、歩く。

    いつまでも、何処までも、ひたすらに歩く。

    走るというのは、目的のある者の動作だ。

    私にはそれが無い。

    ただ、なんとなく、今日という一日を、

    腐らせずに済ませるための行為。

    それがこの散歩であった。

    カモメに近づいた。

    ずいぶん人に慣れているようで、

    最初は動じなかった。

    私は、それに乗じて、

    指先でもって羽に触れてやろうと企んだ。

    一歩、また一歩、距離を詰めた。

    その一瞬、唐突に、飛び立たれた。

    羽音が、やけに耳に残った。

    嫌われた、と思った。

    嫌われることには慣れている、

    なんて言う人は嘘だ。

    やはり、傷つく。

    人間というのは、

    予告のない拒絶にめっぽう弱い。

    そういえば、私だってそうだ。

    突然、知らぬ誰かに

    グッと距離を詰められたら、

    ギョッとして逃げるだろう。

    いや、逃げる準備すらできずに、

    狼狽えるに決まっている。

    それは本能で、動物も人間も同じなのだ。

    自分がやられて嫌なことをした。

    二度とすまい、と思っても、

    人は何所かで誰かに迷惑を掛けねば、

    生きていけないんだなぁ。みつを。

    と呟いて、河川敷の端の端で、

    しばし月並みな感慨に耽った。

    そして、ある程度、

    一人宇宙に満足した私は、

    引き続き、カモメを追いかけ始めた。

    ふと、外国人とすれ違った。

    私はちょうど鳩を

    追いかけている最中だったから、

    彼は私のことを、

    鳩を食べる民族の代表か

    何かだと思ったかもしれない。

    異国の地で、異国の常識が、

    私をとんでもない怪物に変えてしまった。

    だが、言い訳も釈明もしまい。

    良い誤解も悪い誤解も、

    両方あるのが人の性でありSagaだ。

    川辺にて、

    信じがたい光景が視界に滑り込んできた。

    ビキニ姿の女。

    上半身も下半身も、季節も場所も、

    何もかも間違っているように思えたが、

    彼女はあくまで堂々としていた。

    だが、川は、川だけは、

    許してくれなかった。

    青とも緑とも黒とも茶ともつかぬ、

    絵の具の捨て場所のような色をした

    その流れは、

    まるで人間を拒絶するかのように

    濁っていた。

    私は、その女のそばを、

    何事もなかったかのように通り過ぎた。

    話しかけようとは思った。

    触れてみようとも思った。

    だが、怖かった。

    鳩よりも、カモメよりも、

    ずっと、怖かった。

    その肌の白さが、

    逆に私の黒さを際立たせるようで、

    私は顔を背けて、

    再び、カモメのあとを追いかけた。

    ふれられぬものばかりを、私は追っている。

    ?アカリ?





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  • 投稿日時

    金色の嘘

    ――天に祈ったのは、

    努力でも才能でもなく、偶然であった。

    私は、その昔、

    吹奏楽部なるものに身を置いておりました。

    といっても、

    別に音楽が殊更

    好きだったわけではございません。

    ただ、あの楽器の、

    あのサックスという名前の響きが

    どうにも格好よく

    感じられたのでございます。

    これが人間の愚かしさの

    始まりでございます。

    サックス、というのは、

    なんだか、あれです、色気があるのです。

    管のくねり具合とか、

    金属の鈍い輝きとか、

    何よりも、

    吹くときに頬が少しだけ膨らむ、

    その姿が、どうにも耽美で、

    そして孤独を感じさせる。

    ああ、いけない、また妄想癖が出ました。

    ともかく、私はその、

    サックスなるものに

    恋をしてしまったのです。

    ですが、世の中には

    同じような不埒者が二十人もおりまして、

    しかも、受け入れられるのは、たった二名。

    なぜ、こんなにも人生とは、

    狭き門ばかりなのか。

    うちの学校は、奇妙なところでして、

    オーディションなどという

    冷酷な仕組みは用いず、

    「話し合い」で決めるというのです。

    民主主義の仮面をかぶった、

    情念のぶつかり合いでございます。

    ああ、地獄。

    放課後、教室に二十人の野望が集まり、

    話し合いという名の、

    誰も笑わない宴が始まりました。

    一人、また一人と、

    言葉少なに敗退してゆく姿は、

    まるで戦場の死兵でございました。

    「私は、サックスで

    音大を目指しているんです」

    などと申す者もおりまして、

    それを聞いた私は、

    もうその場で椅子ごと倒れてしまいたい

    ような気持ちでございました。

    なんというか、ゲームでいえば、

    URカードの登場です。

    私はせいぜい、Nカード、

    いや、捨て札程度の存在。

    私が持っていた手札など、

    「中学でもやっていました」とか、

    「一生続けたいと思ってます」とか、

    情熱ばかりで技術も将来性もない、

    そんな薄っぺらい紙切れでございます。

    されど、人生は分からぬもので、

    最後の五人にまで残ったのです。

    運命とは、皮肉屋です。

    ここで、いきなりの

    「ジャンケンで決めよう」となりました。

    なんという、反知性、

    いや、ある意味での究極の平等。

    私は震える手で拳を握り、天に祈りました。

    祈りは通じたのでございます。

    私は、勝ったのです。

    勝った。と言いましても、

    それはほんの一瞬のこと。

    後にも先にも、

    私の人生で堂々と勝利宣言できるのは、

    あのジャンケンの瞬間だけかもしれません。

    こうして私は、

    めでたくサックスパートとなり、

    重たいケースを抱えて通学しました。

    あの鈍く光る金属に、

    自分のすべてを投影していた日々。

    青春などという美しい言葉では到底括れぬ、

    汗と嫉妬と寂寞の混沌。

    あれは、たしかに生きていた証でした。

    いま、サックスは実家に眠っております。

    押入れの奥、毛布にくるまれて、

    静かに、しかし確かに、

    私の過去を抱いています。

    あれを再び吹く日が来るのかどうかは、

    神のみぞ知るところでございます。

    私はといえば、

    あのときの自分を思い出しては、

    ふと、苦笑いを浮かべるのです。

    あれは、まったく、狂騒の夢でした。

    ?アカリ?





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  • 投稿日時

    非常ベルが鳴るまえに

    ――私は、ただ音だけを聞いていた。

    帰りの電車のホームで、私は一人、

    妙に長い影を引きずって歩いていた。

    最寄り駅の、

    その名前すら詩情を感じさせない、

    あまりに凡庸な駅のホームを、

    鞄を肩に食い込ませ、

    やや猫背気味に歩いていたのだが、

    どうも様子がおかしい。

    先ほど私が降り立ったばかりの

    電車が、発車しない。

    ただ停まったまま、

    何やら一つのドアに人々が群れて、

    ざわめいている。

    こういうとき、

    私は大抵知らぬ顔をして通り過ぎるのだが、

    その日は、どうも背中に熱い視線を感じて、

    仕方なく、覗き込むように

    その人だかりに近づいてしまった。

    すると、ホームと電車の間に、

    婦人が、いや、もっと正確に言えば

    「おば様」が、片脚を落とし、

    まるでアリ地獄の獲物のように、

    ずっぽりと、はまり込んでいた。

    これは、もう、ただ事ではない。

    おば様の身体が半ばホームに、

    半ば電車に挟まれたまま、

    あられもない姿でよじれ、

    しかしその表情には、

    どこか悟りきったような、

    仏のような穏やかささえ漂っていた。

    その鞄の中身が散乱しており、

    今にも絡まり合って

    昇天しそうな有線イヤホンが、

    知恵の輪のように絡まり、

    いや、あれはまさしく

    ピタゴラスイッチの様相を呈していた。

    イヤホンの一本が、

    車体の隙間に絡まって、外れぬ。

    おば様の足とイヤホンとカバンと電車が、

    ひとつの生命体のように

    合体してしまったかのようである。

    助けようとする人々は既に集まり、

    男も女も、

    あるいは会社員風の人々までもが、

    手を差し伸べている。

    「電車が発車しようとしているぞ!」

    「止めろ、止めろ、電車止めろ!」

    誰かが叫ぶ。

    私は思った。

    今こそ、私の出番ではないか。

    助け起こす腕力など、私にはない。

    だが、緊急停止ボタン、あれだ。

    あれを押せばいい。英雄になれる。

    社会に貢献したと、

    誰かが心のなかで

    拍手してくれるかもしれない。

    私は走った。いや、走ったつもりだった。

    ホームの柱をぐるりと回り、

    目を皿にして、非常停止ボタンを探した。

    だが、どこにも、ない。

    普段見ようともしなかったツケが、

    いま襲いかかってきた。

    焦燥。汗。喉が乾く。

    目の端に、

    電車のドアが閉まりかけているのが見えた。

    ああ、誰か、誰か、早く!

    その瞬間、私の視界を

    軽やかに駆け抜けた人影があった。

    小柄な男だった。

    痩せていて、どこか身軽で、

    現代の忍者のようだった。

    彼は迷うことなく非常ベルのもとへ走り、

    そして、躊躇なく、それを押した。

    ベルの音が高らかに響いた刹那、

    おば様の足が、引き上がった。

    人々がどっと安堵の息をついた。

    すぐに別の女性が、落ちた婦人に駆け寄り、

    何やら優しく話しかけている。

    駅員が駆けつけ、事態を収拾しはじめる。

    私は、何もしていない。

    何もできなかった。

    ただ、見ていただけだ。

    けれど、見ていただけの私は、

    駅員に事の次第をつたえ、

    妙に感謝されてしまった。

    何だか間違っている気がした。

    忍者の姿はとっくになかった。

    彼は非常ベルを押したその足のまま、

    風のように走り去り、

    煙のように姿を消したのだ。

    電車が再び動き出す頃、

    私はひとり家路についた。

    「慈愛のある日本」を、

    ほんの少しだけ、誇らしく思った。

    それと同時に、自分の無力と臆病と、

    頭の中で考えてばかりいて、

    行動の伴わぬ性分に、赤面した。

    電車の音が、やけに大きく胸に響いていた。

    私はポケットの中のイヤホンを、

    ただ握りしめていた。

    ?アカリ?



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  • 投稿日時

    屋形船とサッカーの神 ②

    思えば、幼少期。

    母の実家に行く父の車の中。

    大所帯を無理やりに詰め込んだ

    鉄の箱に閉じ込められた私は、

    東京から片道8時間、

    ろくに身動きも取れぬまま

    揺られ続ける羽目となった。

    永遠に終わらぬ焦熱地獄の

    責め苦を味わい続けた私は、

    解放された途端に意識を失った。

    気が付くと、病院のベッドに寝かされ、

    点滴を受けていた。

    何でも、車から飛び出て地面に

    そのまま倒れ込み、全く起きないので、

    救急車で緊急搬送されたとのこと。

    あの日から、私は父母のことを、

    半分だけ、ほんの半分だけ、

    「シリアルキラーではないかしら?」

    と疑っていた。実は今も少し疑っている。

    そんな私が、

    なんで屋形船に酔わないと思っていたのか。

    げに恐ろしきは金の魔力か、

    はたまた私の頭に広がる忘却の空か。

    兎に角、

    こうなってしまっては配膳どころではない。

    酒、魚、醤油、磯の香りが、

    出鱈目なダウナーをかわして

    吐き気を際限なく呼び起こす。

    三半規管のダンサーはソーラン節に飽きて

    ブレイクダンスを始め、

    良い感じのキメ顔を

    模索しながら廻り続けている。

    今にも船床を鮮やかで哀しい

    ベルベットに染めようとする

    気配の私を尻目に、

    他のコンパニオンたちは、

    慣れた手つきで配膳をこなす。

    ああ、この子たちは水陸両用なのだ。

    私は違う。陸専用。

    むしろ、布団専用だ。

    その中にあって、一際テキパキと

    手際のよい働きをして魅せる影がある。

    よく見ると影の正体は、

    何を隠そう私にこのバイトを

    斡旋してくれた諸悪の根源、

    否、優しき仲介者のG子ではないか。

    G子はいつものんびり笑顔を浮かべていて、

    吹奏楽部ではホルンを

    優しく吹いているような地味な子だった。

    彼女がこんな高機動な性能を

    備えているなんて思いもしなかった。

    ふと、私は騙し討ちに

    会ったような気持ちにさえなった。

    嵌められた。G子は本性を隠していたのだ。

    奴は人攫いに違いない。

    私はこの後、G子に担がれたまま、

    親方に供物として捧げられるのだ。

    「わたしゃ、売られていくわいなぁ…。」

    悔しさと情けなさで、

    私は居直り強盗よろしくふて腐り、

    物理的にも斜に構えていた。

    限界なのである。

    すると突然、

    G子が私に向かって駆け寄ってきた。

    ああ、ここが年貢の納め時か。

    私は迫りくるB29の空襲を前に

    最後の竹槍さえ打ち捨てた。

    「大丈夫?休む?」

    「いや…そういうわけには…。」

    「やっておくから大丈夫だよ!

    体調悪い時くらい頼ってよね!」

    「…あい…とぅいまてん…。」

    負けた。完敗だ。

    私は人攫いの情け深さに

    スジャータの粥の温もりを感じ、

    心の臓ごと持っていかれた。

    その日一日、

    迷惑をかけっぱなしだったにも関わらず、

    G子は常に、私に屈託ない笑顔で、

    いつものように明るく接してくれた。

    私の猜疑心を、軽やかに蹴飛ばして、

    尚も頼もしきG子の背中は、

    サッカーの神様たるその名に恥じない

    紅の焔を湛えていた。

    それはグラウンドを吹く風に靡びき、

    芝を濃く照らす陽気と混ざって、

    鮮やかな女性らしい薄桃色の香りを燻らせ、

    私の鼻孔を擽り、肺臓を満たした。

    私はG子になら

    蹴転がされてもいいようにさえ思った。

    結局、私は役にも立たず、

    終始、蒼白な顔で、

    ただただ海面に間違って上がってきた

    藻の如く揺れているばかりであった。

    最後の掃除だけは、

    必死に力を振り絞って手伝った。

    親方が「無理すんなよ?」

    と声をかけてくれた。

    そんな親方の心配の声に

    背中を押されながら、

    顔面蒼白で屋形船から降りた。

    シリアルキラーの車から降りた

    あの時と違って、

    今度は己が情けなさが悔しく、

    倒れそうだった。

    心の方が顔面より余程、

    蒼白く後ろ暗い色に染まりきっていた。

    居たたまれない程に

    寂しい切なさで一杯だった。

    親方は

    「頑張ったな!学生は体が資本だからな!」

    そう言って、

    何の役にも立たなかった私に対し、

    バイト代の5,000円全部を、

    茶封筒に包んで、

    優しい笑みまで添えて渡してくれた。

    バイキングだと思い込んでいた

    親方の中身は、リトルマーメイドだった。

    これが、

    私が人生で初めて受け取ったお給料だった。

    もう、屋形船には行けなかった。

    行きたくもなかった。

    だけど、忘れられない。

    あの酔いも、あの優しさも、あの海風も。

    何もかもが、私の青春の残滓として、

    胸の中にしつこく残っている。

    今でも夢に見る。あの屋形船。

    配膳中によろめいて、

    G子に抱えられる夢を。

    どんな悪夢よりもリアルで、

    どんな現実よりも、温かい夢を。

    ?アカリ?


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  • 投稿日時

    屋形船とサッカーの神 ①

    ――私は蹴られた。

    しかも、優しく、見事に。

    人生とは酔狂なものである。

    宵の刻に酔いが醒めては興覚めである。

    どうせ酔うなら自分に酔ったまま、

    酔いどれに見る夢を

    墓場まで持って征きたい。

    ともあれ、

    どうしても酔いたくないものもある。

    生きは酔い酔い、帰りは後悔。

    そう、航海の後には後悔しか残らない。

    私にも所謂、苦学生という時代があった。

    高校の時節である。

    吹奏楽に耽溺し、

    サックスを担当していた私は、

    ある日通りがかった楽器屋の

    トランペットに心を奪われた。

    木管などとうに飽いた。

    これからは金管の時代だ。

    一時の浮気心へ拘泥止まぬ私は、

    バイトをする決意をした。

    しかしながら、私は部活動のせいで

    レギュラーのバイトをすることが叶わない。

    こんな不条理は神の悪徳の所業だと思った。

    私は部活を憎んだ。

    ともすればその発端となった

    トランペットすら嫌になってきた。

    所詮、不義理なる恋なれば、

    その情熱が火車の如く駆けだしたところで、

    不埒は天に阻まれ、

    焔に揺れる恋慕も篠突く

    雨に?き消されてしまうのだ。

    何がトランペットだ。何が金管だ。

    吹いても吹いても、

    吹けば飛ぶような

    お金と引き換えじゃないか。

    俗な楽器だよ。

    その点、私のサックスは

    父から譲り受けたもの。

    このサックスも謂わば、

    父にお金で買われた

    女郎のようなものであるが、

    父のお財布にまで腐心するほど

    可愛げのない子供ではいけない。

    私は「父の懐中、是一切、解脱の救済也。」

    と嘯き、

    俗世とは無縁であると決めてしまった。

    しかし、

    愛憎表裏一体とはよく言ったもので、

    私が金管を憎めば憎むほど、

    私のトランペットへの

    愛情は深くなるばかり。

    あれは相当に手練れた年増の女郎だ。

    山椒大夫だ。

    「わたしゃ、売られていくわいなぁ~。」

    憐れを誘う物憂げな金管の唄声が

    脳裏に響き渡る。

    どうやら、私は限界のようだ。

    初めてのバイトは、忘れもしない、

    部活の同胞であるG子からの紹介だった。

    何でも彼女は今日、

    日雇いで屋形船の

    給仕バイトに赴くそうなのだが、

    何やら自分の他の同級生にも

    色々と声掛けして、誘いをかけている様子。

    聞けば、船の親方から直接、

    頼まれたとのこと。

    「他にも活きの良い若い女がいたら、

    声かけといてな!

    悪いようにはしねぇから!」

    海の男とくれば荒くれ者

    しかもこの親方の口調ときたら、

    ああ恐ろしい。まるで海賊ではないか。

    こんな野卑な口車に乗って

    ノコノコ船に乗った日には、

    女の華の盛りが阿鼻叫喚の中で

    支離滅裂に雲散霧消してしまうに違いない。

    全くいつの世にも、

    時代違いの恐ろしい

    粗野な人種が残っているものだ。

    くわばらくわばら。

    「単発で3時間、

    船に乗って食事やお酒の

    配膳するだけで5,000円だよ。

    良い条件だと思うけどなぁ。」

    私は即座に船へ向かう支度を整えた。

    初めて乗る屋形船は浮世離れして豪華絢爛。

    先輩の姉さん方に着つけて貰った

    簡単な着物の着心地も手伝って、

    私はすっかり芸者気取りの得意顔。

    限界まで伸びた私の鼻は、

    かのクレオパトラに比肩しても劣らず。

    大カエサルすら欺くに足るであろうと

    勝手に自負して憚らない。

    「わたしゃ、売られていくわいなぁ~。」

    売られる女は良い女とでも

    勘違いをしていたのか、

    遊郭の歴史すら朧な私には、

    花魁道中など夢のまた夢。

    華と散る乙女の憐憫なる運命を

    少しく夢見るかつての私は、

    古のスパルタ兵のように純粋だった。

    そしていよいよ、配膳の時。

    すると、急に、世界が、

    幾重にも、歪み始めた。

    目先のお金に釣られた私は、

    とんでもない見落としをしていた。

    私は乗り物酔いをする。

    それも普通の程度ではない。

    普通の酔いが竹槍なら、私はB29だ。

    私の小さな脳髄は、

    全盛期のマイク・タイソンの

    アッパーカットが顎をかすめたかのように

    超振動し、

    三半規管が全力のソーラン節を踊り始めた。




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  • 投稿日時

    タイタンの怒り


    吾輩の愛車はママチャリである。

    名前はまだない。

    と、周りの知人には誤魔化しているものの、

    実は陰ながら命名済みなのである。

    恐れ多くもかの大英雄、

    アレキサンドロス大王の愛馬の名を

    勝手に拝借しているのだ。

    これは知己に紹介するにも、

    ともすれば身の程知らずの汚名を被せられ、

    更にもしその相手が

    無類のアレキサンダー信者であったならば、

    最悪、絶縁も免れぬであろう。

    斯様な憶測からの

    リスクマネジメントとして、

    この真名は我が心中に留め、

    周囲には秘密にしている。

    しかしここにおいて

    浮世の煩わしき人々への

    小心な心遣いなど無用の長物。

    ここは思い切ってこの場に甘え、

    威風堂々とその名を

    ひけらかすが正解であろう。

    吾輩の愛車はママチャリである。

    名を「ブケファラス」という。

    そして今、ブケファラスは

    世俗の泥に塗れて汚れてしまっている。

    私がコーヒーをぶちまけたのだ。

    移動中にいつも片手に持っている

    スタバのベンティを、

    より安全に運搬すべく、

    ブケファラスに

    コーヒーホルダーを据え付けた。

    それで充分に事足りたと思っていた。

    間違っていた。

    カップには容器内の気圧を一定に保つための

    空気穴が無数に空いているのだ。

    そこからスパルタクスの反乱に

    便乗する奴隷たちが我先に脱出せんと

    乱暴に格子を突き破るが如く、

    無数の細かい飛沫が上がる。

    それは段々糸のように長く、

    波のようにうねり、

    ついにはカップ本体と蓋の

    調和を保つ張力を破壊し、

    接合部をこじ開けて、

    反乱軍の本体が一気にカップから

    そのまま外へ溢れ出す。

    爆ぜるように空へ飛び出した剣闘士たちは、

    コンクリートの土を

    背景に滲む景色の焦点に

    茶褐色を添えて全体をセピア色に彩る。

    そして色彩が元の気配を取り戻したとき、

    景色はまた滲む。

    今度は焦点云々の話ではない。

    我が眼に累々と滲む

    無常観によって全体が滲んでいるのだ。

    刹那に散ったセピアは悉く

    ブケファラスに襲い掛かった。

    ブケファラスの鮮やかな薄緑の身体は、

    面を脂に任せて役目を終えんとする紅葉の、

    後を枯葉に託す厭世的な色に汚された。

    明日に繋ぐ望みすら抱かせぬ

    暗い朝焼けのようでもある。

    私の心持ちは

    その吉凶明らかな暗い光線に焼かれて、

    漕ぎだす活力を失って

    その場にただ茫然と佇んでいた。

    私が常日頃よりモバイルオーダーから

    店員の笑顔に微笑み、

    カップを彩る朝の挨拶に心を温められ、

    さりとて、その後を共に駆ける

    ブケファラスへの返礼がこれとは、

    なんという理不尽であろう。

    今の私には、朝を満足させる苦みに

    身を沈める資格などあるまい。

    これではまるで、

    私こそがスパルタクスではないか。

    いつの間にブケファラスが

    王政の頂点にあって

    私を奴隷徴用していたのかは

    定かではないが、

    ともかくも私はブケファラスに

    反目を翻す意志なきを示し、

    我が寵臣との信頼回復に努め、

    改めて王政復古の大号令を発さねばならぬ。

    かくして私は、タンブラーを購入した。

    手持ちの大袈裟な

    水筒などを用いる手もあったが、

    斯様な俗物をブケファラスに

    間に合わせで献上して、

    我が愛馬の機嫌を損じるは

    元の木阿弥である。

    実用的で、簡素な作りの逸品。

    これは私にとっても

    初めてのタンブラーであった。

    これを用いること即ち、

    モバイルオーダーの習慣から

    外れることとなる。

    いつもの朝を目覚ます店員の笑顔、

    親切心で描かれた落書きが胸中を過り、

    少し切ない。

    しかし、我が朋友を守ることこそが、

    彼らの親切心に報いる事だ。

    あの笑顔や落書きは、私の幸せのために

    演出されていたものなのだ。

    そうでなければただのイジメだ。

    朝っぱらから接客で嘲笑され、

    商品に落書きされることに、

    人の営みの幸せなどあるはずもない。

    過ぎたる詮索は無粋である。

    そうでなくとも、

    人生は素敵な勘違いで

    充分に合格なのである。

    一通りの屁理屈を経て、

    充実した気持ちを手に入れた私は

    「我が竹馬の友ブケファラスを、

    これより未来永劫、

    浮世の汚泥から守り切ってみせる!」

    そう得意になっていた。

    これにて店員の気持ちも、

    想いを込めた落書きも、

    大神の意に沿って

    穏やかに高天原へと召されるであろう。

    しかし、私は大地の怒りを侮っていた。

    卑しくも人の身にあって、

    地に足もつけず天下を

    往来しようとする人の傲慢を、

    タイタンは許さなかった。

    如何な趣向を凝らそうとも、

    ママチャリの揺れは尋常に

    収まることを知らない。

    往けば必ず零れる。

    タンブラーだろうと鉄鋼戦車だろうと、

    往く者は等しく

    その対価を払わねばならぬのだ。

    カップより、少しくマシになって、

    ポタホタと、

    それは私の眼に顕れる悔恨の代わりに、

    滴り続ける。

    汚れる相棒。志半ばに果てた想い。

    このまま、渋色の濃い枯葉となって、

    梢を離れ、風に吹かれて

    自由に飛び廻れたらいいのに。

    様々に寂莫たる想いを

    お掃除シートに託しながら、

    私は今日もブケファラスを

    ピカピカに磨き上げる。

    ?アカリ?




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    汚れっちまった悲しみに


    大都会の片隅で、

    今宵も人知れず狂宴が催される。

    時の二針が重なり、

    青白い顔をした電灯の瞬きしつこく、

    春雨が白線の束となって

    街に薄い簾をかけていた夜。

    モノクロの座席を

    心地良く揺らすタクシーの車窓から、

    私はそれを見ていた。

    囲まれる浮浪者らしき老人と、

    にじり寄る4人の若者たち。

    恐ろしいことが起ころうとしている。

    声が聞こえる。肝を震わす恫喝の声。

    否、違う。

    大声で喧しいことには違いないが、

    少し節付きである。

    これは、歌だ。悍ましい地獄の挽歌だ。

    するとひとりが大きな鈍器を振り上げる。

    ああ、これは儀式だ。

    暴力を賛美する壊れた宴だ。

    私は東京に戦慄する。

    大都会の昼の顔だけを

    見て生きていたかった。

    そう思いながら、顔を背けそうになる。

    その刹那「がんばれ~!」

    また、声が聞こえる。

    誰かが私に、エールを送っている。

    目を背けるなと、

    この現実を受け止めて強く生きろと、

    残酷にも背中を押してくる。

    私は運転手の無言の背中に

    切なさを感じながら、

    辛い浮世に遠慮がちな流し目を送った。

    鈍器は、老人の眼前に振り下ろされていた。

    彼の目の前に躍り出たそれは、

    尚も彼を威嚇するかのように、

    小刻みに左右に揺れている。

    よく見ると、それはアコギだった。

    若者はまたそれを大きく振り上げると、

    毟るように弦を掻き鳴らしながら叫んだ。

    「がんばれ~!」

    これは、歌だ。シマンチュヌタカラだ。

    見ると、他の若者たちも、

    手拍子やハモリを入れて、

    これに参加している。

    そして更には、

    若者たち全員の大合唱が始まった。

    その真ん中で、老人は、

    正しき道を失って迷っていた。

    若者たちは、そんな彼に道を示すが如く、

    手拍子を促す。「がんばろうぜ~!」

    老人は戸惑いつつも、ついには根負けして、

    苦笑いで手拍子を真似た。

    当惑の産物か、

    老人の手拍子は偶然にも裏拍を取っていた。

    若者たちから一際大きな歓声があがる。

    青信号を切っ掛けにタクシーが体を起こす。

    歓声が後ろに細長くたなびいていく。

    雨は、いつの間にかやんでいた。

    雨上がりの夜道を、

    月影が闊歩して青白く塗り替えていく。

    春に浮かれ、雨に降られ、

    人気に逃げられた路上では、

    活力の行き場をなくした若き奏者が、

    浮浪者の老人相手に、

    元気の叩き売りを始める。

    路上の若者たちは、

    雨上がりと共に姿を消しただろうか。

    浮浪者の老人は、叩き売られた元気に、

    少しは頬を緩ませただろうか。

    大都会の夜は、

    時に奇天烈な変顔をするものだ。

    そんなことを思う私の頬は、

    少し暖かかった。

    ?アカリ?



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    第四の予言者

    鰯の頭も信心から。

    とは、昔から殊更に世間様で

    馴染みある慣用句として身近なものなれど

    信心が行き過ぎると、

    時にその崇高な志も、

    徳を知らぬ他人には、

    解し難い奇行に映るものである。

    いや何を隠そう、先ごろ、

    この私自身が、

    それを体現する聖人に遭遇し、

    恥ずかしくも狼狽してしまった話がある。

    去る休日、私は待ち馴染んだ

    横断歩道の白線の数を数えながら、

    本日の吉凶を占っていた。

    ふと、周囲に落ち着かない気配が漂い始め、

    人々の相貌がどうにも

    崩れてゆくように感ぜられた。

    その下から覗く面に、

    或いは好奇、或いは恐怖を浮かべながら、

    彼らはモーセを渡すべく割れる

    紅海の如く二手に分かれ始めた。

    今より彼方から来るであろう

    予言者へ一道を渡す気配が漂い、

    私はひょっとしたら

    後方より迫りくるやもしれぬ、

    追手のエジプト軍を警戒した。

    雑踏を分けた革靴やスニーカーが縁取る

    灰色のカーペットへ姿を現したのは、

    革靴に、コットンのパンツ、

    ロングシャツに、中折れ帽を

    少し阿弥陀に被った痩身の男性だった。

    その全身の色が、春の際にあって、

    秋口にばさりと落ちる

    梧桐の落葉に焼け浩がる筋のような、

    夜ごとを寒く明ける漆黒である。

    令和の予言者の姿は、

    闇夜が白昼に浮いているが如き

    一際の異彩を放っていた。

    注視すると、

    この予言者の後を追うものがある。

    私は「さては、やはりエジプトの追手か?」

    と多少身構えた。

    しかし、それにしては小さい。

    犬だろうか?

    いや、犬にしたって小さすぎる。

    タワシだ。

    タワシが二つ、

    リードに括り付けられていた。

    リードの持ち手は、予言者であった。

    私はわけが分からず、

    信号が変わるまで、穴の空くほど、

    この予言者とタワシを見つめていた。

    もはや、

    信号が変わってからも見つめていた。

    気が付くと、むしろ私が、

    周りから見つめられていた。

    モーセに道を空けた者たちは、

    予言者の姿を

    眼に焼き付けるのが恐れ多いのか、

    皆一様にして彼を注視するのを

    遠慮している様子だった。

    その中にあって、一人、

    躊躇なく熱い眼差しで

    予言者の背中を射抜き続けていた私を

    「不敬なヤツだ!」

    とでも非難するかのような、

    所謂「コイツめっちゃ見るやん?」

    という眼差しが、

    私をいつの間にやら

    様々な角度から焼き焦がしていたのだ。

    私は考えた。

    何故、予言者はタワシを散歩させるのか。

    ああ、そうか。

    彼はこの世界の穢れを少しでも灌ぐために、

    天から遣わされたのだ。

    なればこその、タワシなのだ。

    タワシを引き摺って回ることで、

    彼は歩一歩毎に、少しづつ、

    世の穢れを灌いでいるのだ。

    そうに違いない。

    よく見ると、予言者の背中には

    亀形のタワシがあった。

    つまり、これは予備。

    余り極端にタワシが

    汚れきってしまったが時の、

    備えとみて間違いないだろう。

    どうして背中に乗せる必要があったのか?

    これは未だに判然としない。

    しかし、これにはおそらく、

    人智の及ばぬ秘密があるのであろう。

    人の身にあっては、

    無暗に立ち入らぬことが正解だ。

    こうして一通り、

    予言者に対する考察、

    という名目の妄想、

    を終えて満足した私は、

    漸く現実に戻ることにした。

    俗世に帰った私の声が、

    頭の中に、今更ながら響き渡る。

    「人の趣味嗜好は様々なれど、

    無類のタワシ好きなんて、

    奇特な人もいるものだなぁ。」

    「家を飛び出して、公道を磨かせて、

    タワシとしての生を

    存分に満喫させてやろう!

    という配慮なのかなぁ。」

    そう考えると、

    実にペット想いの優しい飼い主さん

    に思えてきた。

    予言者なんかより、そっちの方がいいや。

    今日は少し、

    優しい気持ちで過ごせそうな気がした。

    ?アカリ?



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    明日への微笑

    まただ。またジムに行っていない。

    もうすっかり板についている私の悪癖だ。

    一年前はエニタイム、

    数ヶ月後にはジョイフィット、

    ヨガにキックボクシング。

    お世話になっているトレーナーの好意で

    紹介してもらったとはいえ、

    タイのムエタイジムにまで行ったことは

    我ながら驚くべき弾丸の痕である。

    万年文芸部気質の私にとって、

    運動とは羅針盤なしの

    大西洋横断航路である。

    未だどんなトレーニングが

    正解なのかわからぬまま、

    荒波の中を幽霊船の如く彷徨い続けている。

    ただし兵糧だけはしこたま積んであるので

    痩せ衰えることはない。口惜しい。

    兎にも角にも筋肉をつけることだ。

    それから体を柔軟に。

    呼吸法も重要だ。

    心肺を追い込んで激しく。

    時には有酸素も忘れずに。

    結局どれも正解だ。

    ということは同時にどれも不正解

    ということではないか。

    ダメだ、

    こんなことを考え出すからいけない。

    理屈を捏ねる前にやることだ。

    継続は力なり。

    人間に最も必要なのは胆力だ。

    気付けば私は河川敷を走っていた。

    思えばジムに行かねば運動せぬという

    考えからして人間的でない。

    やれ時間帯を気にし、レッスンを確認し、

    周りの指導に右往左往する。

    体を動かすだけのことが

    こんなに不自由なのは

    不自然というものではないか。

    恒久性を突き詰めるならば、

    私の自然な生活の中に

    運動というものがごく当たり前に

    息づいていなければならない。

    この川縁を見よ。

    デートコースに河川敷を選んだものの、

    退屈そうな彼女の顔に焦る男。

    馴染みの顔同士で挨拶する間に、

    連れていた大型犬同士が喧嘩を始め、

    己の無力を痛感する老夫婦。

    毎日鳩に餌をやるも、

    増えすぎた群れを前に、

    そろそろ自治体に叱られるのではないか

    と怯える中年女性。

    私はそんなのんびりとした人々の日常に

    一瞬切れ目を入れるように、

    間を縫ってお邪魔する。

    風を受け走り抜ける私もまた

    この河川敷の風景の一部

    となっていくのが心地良い。

    だがどんな場所にも不倶戴天の敵は現れる。

    ランナー。私と志を同じくする者たち。

    彼らと遭遇するなり、

    心中は穏やかではなくなる。

    負けん気が出てくるのだ。

    「後輩に追い抜かれてたまるか。」

    「あんたの尻も見飽きたぜ。」という、

    不毛な意地の張り合いが始まるのだ。

    追いつかれそうになると

    反射的に早くなるBPM。

    互いが互いの音楽を

    出鱈目にミキシングし合い、

    結果不協和音。エンスト。

    切磋琢磨とはうまくいかないものだ。

    周りを気にせずマイペースを貫けたなら

    どんなにいいだろう。

    だが競争心があるから人間は

    今日まで発展してきたのだ。

    この競争心を蔑ろにはできぬ。

    私はマルキシズムに依らず

    資本主義の中で生きてきたのだから。

    また後方から足音が迫る。

    自然、私の足運びが忙しくなる。

    先だっては白いキャップを

    目深にかぶったスレンダーなおば様と

    デッドヒートを繰り広げ、

    私の足が先に音を上げた。

    折り返し地点を華麗にターンした

    おば様の口の端に浮かんだ微笑を

    私は見逃さなかった。負けた。

    敗者の屈辱に体が熱くなった。

    その余熱を持ったまま、

    悔しさを噛みしめて帰路を走った。

    それからというもの、

    私は何度も彼女と遭遇し、

    幾度となく競り合った。

    しかし、未だ勝ち星をあげるに至らず。

    ただ一つ確かなのは、

    彼女の微笑が、もはや私の日常の一部

    となってしまったということだ。

    走ることに理由は要るまい。

    ただ、私は走る。

    あの微笑が、私を明日へと走らせるのだ。

    ?アカリ?



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    女神のお膝元

    美を追求せんと欲すれば、

    生身の女性に倣うべし。

    私は、美を求めて彷徨う巡礼者である。

    半ば信仰に似た思いで、

    私は夜毎、化粧台の前に座る。

    私の美容の師は、何を隠そう、

    ここ千夜一夜物語の姫君たちである。

    彼女たちの発する言葉は、

    聖書の一節のように私の耳に響く。

    紅の選び方、眉の描き方、髪の流し方。

    いかにして女は

    女としての輪郭を保ち続けるのか。

    私は寺子屋の小坊主よろしく、

    懇談の都度に、彼女たちに御講義を賜る。

    ある日のこと、

    控室にて新たな福音が告げられた。

    「どうしたらおっぱいが大きくなるのか?」

    その問いが発せられた瞬間、

    部屋の空気が張り詰めた。

    ここはもはや学び舎であり、

    真剣なる議論の場である。

    姫君たちは己の知見を披露し合い、

    ブラの形やサイズについて、

    店ごとの特色まで詳らかに語った。

    私は舌を巻きながら、

    傾聴するばかりだった。

    「膝の肉も、胸に持ってこれるよ。」

    目の前の姫君の小さな口から、

    耳に入れるには

    大きすぎるような言葉が出た。

    聞き間違えたのではないかと我を疑った。

    いかに師の唱える教えとはいえ、

    これは看過できない。

    私の頭は豆腐ほどに柔らかくはないのだ。

    もしや彼女は、

    情報の網に私を絡め捕食しようと企む

    女郎蜘蛛なのではなかろうか。

    私はファンキーな疑念と共に

    周囲の気配を伺う。

    ところが、

    他の姫君たちは、

    何の事もなくただ一様に

    頷いているではないか。

    確かにその発言主の彼女の胸は、

    丸みを帯びてしなやかに、

    女性らしくし美しい。

    元来、おっぱいとはかくあるべきだ

    という無言のお説教を喰らっているようだ。

    否、私は何かとんでもない秘儀の存在に

    気づいてしまったのではないか。

    彼女たちは代々、この秘技を受け継ぎ、

    胸を形づくってきたのではないか。

    私はその真相を知るべく、覚悟を決めた。

    「その旅路を成功させるには?」

    「やってあげるよ。」

    膝胸の女神は手際よく私の体に触れ、

    肉の波を巧みに操った。

    彼女の指先が私の膝から肉を掬い上げ、

    それを胸元へと導く。

    私はただ、されるがままになっていた。

    まるで彫刻家が粘土をこねるように、

    女神は私の輪郭を変えていく。

    そして鏡の中に映る私の胸は、

    いつもの1.5倍…

    いや、2倍の豊かさを湛えていた。

    これは魔術か、あるいは神の祝福か?

    私は組み分け帽子に問いを投げたかった。

    「これを毎日続けるといいよ。」

    女神は微笑んだ。

    その笑顔は、無償の愛に満ちた

    ハッフルパフのそれだった。私は思った。

    私はもう、スリザリンを卒業しよう。

    膝から胸への巡礼の旅を

    続けると決めたのだ。

    そして今日も、私は膝に手を当て、

    静かに肉を引き上げる。

    新たなる朝を迎えるために。

    ?アカリ?



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