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アカリ(21)
T164 B88(E) W56 H87
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お題:異世界転生・歴史探訪
嘘つき同士の友情・最期の晩餐
希望と空虚・臆病者・快楽に溺れる
据え膳食わぬは男の恥
正解と正しいは違う・推し活沼
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長い卓が
まるで石のように静かに横たわっている。
私は、その中央に鎮座していた。
左右に、十二の男たちが波のように連なる。
背後に並ぶ窓から
夕刻とも夜ともつかぬ淡い光が差し込み
その者たちの輪郭を
冷ややかに浮かび上がらせた。
陰気な、実に陰気な奴らだった。
これは、嗚呼、あの時の
桶狭間前夜のヤタケタ酒宴の時のようだ。
あの酒宴は酷かった。
盛り上がりもクソもなかった。
今から死のうってのに
もうみんな己の葬式を始めているような
そんな暗くて陰鬱で
酒はノニジュースのような飲める地獄と化し
肴はシュールトレミングの如き
腐った臓腑の風味を醸し出していた。
私が宴席を盛り上げようと
洒落を言っても悉く駄々滑り
部屋は風もないのに
地獄の冷気に包まれているかのような
有様だった。
あんなコキュートスな宴はもう懲り懲りだ。
というかなんだ今度は。
私は女として
うまくイングランドに取り入って
さる侯爵の愛人として
安泰な生活を手に入れたはず。
なのになんでまた
別世界に飛ばされなきゃならんのだ。
帰せ。私をドンレミ村に返せ。
大体なんだこの胡乱な衣は。青と赤って。
進むのか止まるのかはっきりしろよ。
もしくは中間とて黄金色とかにしろよ。
蒼ざめて血に染まるみたいな暗示かこれは。
なんか卓にはパンと杯置いてあるけども。
なんだこんな粗末な食事。
こんなもんが最期の晩餐とか正気ですか。
と思って男たちの顔を見渡した私の目は
ある一点で止まった。
一瞬にして顔が蒼ざめた。
次の一瞬で、顔色が血の気一色に染まった。
私の右隣。
長髪の陰キャと
白髪のおっさんのその向こう。
そこに、絵守がいた。
奴の顔は
バタ臭い西洋人のものになっていたが
私にはわかる。
何故かわかる。
何故かは知らんが
とにかくこいつは絵守だ。
青い外衣を身に纏って項垂れていた絵守は
しかしてやがて私と中空で目が合った。
絵守の方でも私と同じ
知覚現象が起こったのであろう。
数舜おいて、奴の顔色が
一瞬にして外衣と同じ色に染まった。
気付くと私は卓を乗り越えて
絵守に飛び掛かっていた。
?
「貴様!
ここで会ったが百年目だこの野郎!」
私の右ストレートが絵守の鼻っ柱を
マトモに捉えた。
絵守は椅子ごとひっくり返って吹っ飛んだ。
なんだか知らないうちに
私のパンチは何人もの人を殴り
屠ってきたかのように鋭くなっていた。
おかげでいつぞやの時のように
手首を捻らずに済んだ。
って、あれは私の妄想の中の話だった。
いや、違う。
私はその後に現実でこいつをぶん殴って
豚箱送りになったのだ。
その時もしっかり手首をグネっていた。
しかし
なんとも清々しい気分じゃあないか。
このわけのわからん
夢の世界に来てからというもの
数多の時代で、私は何度
この顔を殴ってやりたいと
神に願ったことか。
それに、この世界には
悪辣な公安もヤメ検軍団もない。
ざまあみやがれ。
嗚呼、夢が叶いました。
否。否否否。
こんなもので済むと思うなよ。
もしこいつをここで仕留めきれずに
元の世界に戻ったりしたら
こいつはまた前と同じ手口で
俺を豚箱に送ろうとするに違いない。
そうはいくか。
その前に
トニーと同じところに逝かせてやるよ。
…って、誰だそれ。
記憶を混濁させながらも
私は勢いそのままに絵守を追撃。
馬乗りになって
奴の顔面をパウンドで殴打した。
「貴様がッ!死ぬまで!
殴るのを辞めないッ!」
「イエス様!お気を鎮めてください!」
「主がご乱心だ!」
「はやくユダから引き離せ!
死んでしまうぞ!」
十一人の陰キャが慌てて止めに入り
私を羽交い絞めにした。
「離せ!
そいつだけは生かしちゃおけねえ!」
「ではイエス様の言う裏切り者とは
ユダのことなのでしょうか?」
「裏切り者?嗚呼そんなもんじゃ済まねえ。
こいつは俺の名誉と引き換えに
己が地位を手に入れやがった
悪辣な簒奪者だ」
そこまで言って
私は息が続かなかなくなった。
どうやらこの身体の持ち主は
大してフィジカルに余裕がないらしい。
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気が付くと、私は木骨と土壁でできた
梁むき出しの粗末な家の
これまた更に粗末なベッドで
仰向けに寝かされていた。
「気がついたかい。
まあしばらく股に布押し当てときゃ済むよ。
これであんたも女だね」
中年の女が古布を
何枚か枕元に置いてそう告げた。
あれがおそらく私の母親だろう。
そしてこれは初潮というやつか。
つまり私は、なんということでしょう。
女になっていた。
性別まで変えるなんて、いくら神でも
適当が過ぎるんじゃないかしら。
しかしこれは、私の昔からのある疑問を
確認できるチャンスでもある。
それは何か?
性的な興奮の問題である。
言うな。私は決して変態ではない。
だが、全男性紳士諸君を
代表して敢えて言おう。
男と女が入れ替わる物語は
古今東西に数多ある。
しかして、それに劣情を覚えた
という描写は稀有だ。
私はずっと思っていた。
「そんなわけあるかい」と。
こんなうら若き乙女の体が目の前に
否、自分自身であるのに
これを楽しまない
インポテンツがあるものか。
ということで私は
己の全身をまさぐってみた。
断っておくが
決して厭らしい気持ちからではない。
これは性科学向上のための貴重な触診であり
私は人類の偉大なる飛躍の礎となるため
甘んじてこの変態の謗りを
免れないような行為に
殉職の如き精神で以て
この身を捧げているのだ。
それでも私を非難する者があるならば
よし私も男だ。
その挑戦、受けて立とうじゃあないか。
私は逃げも隠れもしない。
そして今の私は女だ。
もし少しでも乱暴に触れた男があったなら
即豚箱行きだ。
さあ、大声を出されても良いなら
どこからでもかかってくるがいい。
?
ところが、己の身体と認識するや否や
私の精神はもはやこれに
何の劣情も起こそうとしない。
股間もすっかり大人しい。
あいや、そういえば
今の私は竿なしなのだった。
それにしてもズキズキする。
何だか何もかもどうでもよくなってきた。
正直に言うと、私はこの夢のような展開に
期待と股間を膨らませていた。
あいや、股間はズキズキするだけだけど。
それでも見果てぬ情欲に
胸がときめいていたのだ。
ところが、なんですかこれは。
ただの私じゃないですか。
私が私に興奮するわけがないでしょう。
嗚呼、もう嫌だ。夢が壊れました。
今考えてみれば
なんて汚らわしい発想なのかしら。
己がことながら軽蔑しちゃうわ。
そんなね、己にむしゃぶりつくくらいなら
豚肉でも買った方が
よっぽど上等でしょうよ。
何故そんなこともわからないのかしら。
大戯けめ。恥を知りなさい。
っていうかね。
ぶっちゃけ私、多分これ
ジャンヌ・ダルクなわけじゃないですか。
そんでまぁ、この、女の身体の大変さ?
凄いじゃないですか。
こんなしんどい身体引き摺ってね。
地元の軍事拠点まで行ってね。
そこの守備隊長、説得してね。
そこから幾つもの
イングランド領、掻い潜ってね。
地獄のような道のり経てね。
シャルル七世に会ってね。
オルレアンで頑張ってね。解放してね。
シャルル助けてやってね。
それから数多の戦場で
突撃バーサーカー繰り返してね。
そんで最終的にシャルルに裏切られてね。
見殺し火炙りとかね。誰がやるかってね。
そういうことをね。私は言いたいのね。
わかりますよね。ね。ね。
?
ドンレミ村の朝は早い。
六時には羊や牛の世話。
家事全般に教会通い。
気が付いたら一日が終わっている。
田舎は地味でも都会より忙しい。
殊にここ中世フランスとなると
忙しいどころじゃない。
事ある毎に
ブルゴーニュ派の敵兵が攻めてくるし。
その度に山間や谷間にスタコラ避難。
戻ってみたら略奪に放火。
逃げ遅れたが最期。
犯され殺され放火され
無事でいるのは教会くらい。
なんだか祈るのも馬鹿らしくなってくる。
私がここ、ドンレミ村に来てから
かれこれ2年が経とうとしている。
そう、私は
ドンレミ村から一歩も出なかった。
「ジャンヌ、もう声は聞こえないのかい?」
「はぁ?なんのことでしょうか?」
「いや、あなた。王太子に会いに行くって」
「冗談言わないでくださいよ。
あなたがT-34をおひとつくれる
というなら考えますけど」
「T-34?」
「21世紀の秘密道具です」
「でもフランスを救わなきゃって…」
「まあ、なんて不遜な。
そんな預言者気取りなこと言っちゃ
イエス様から鞭が飛びますよ」
しつこく絡んでくる
井戸端おばさんを冷たくあしらうと
農夫がニヨニヨしながら近づいてきた。
「なあジャンヌ。今晩あたり…」
私は微笑みながら、男の唇に
人差し指を当ててなぞるように撫でた。
私は、あれから
村一番のヤリマンになっていた。
何故か。
ある日、村の男に誘われて
試しに交わってみたら、これが極楽浄土。
男の時には想像もできないほどの快楽。
小指の耳の穴に入れて穿った小指が男
耳の穴が女の感じる快楽だと
聞いた事があったが、そんなもんじゃない。
こればっかりは
両方経験してる私にしかわかるまい。
そしてこの時代には
逞しい農夫がいくらでもいた。
男の時分は
女に柔らかい肌ばかりを求めたものだ。
だが、女になると話が変る。
男の魅力は、鍛え上げた筋肉の硬さである。
その厚い胸板を枕に眠る恍惚は
巨乳枕に勝るとも劣らない。
据え膳食わぬは男の恥…いや女の名折れ。
私の名前は、もはやドンレミ村に止まらず
ロレーヌ地方の名物となり
フランス人はおろか
イングランド兵までもが、私を求めて
遠くから押しかけてくるほどだった。
一体、もう何人の筆卸をしただろうか。
「筆山の、筆を取っても、筆卸」
我ながらキツい一句ができてしまった。
そんな淫蕩に日夜明け暮れ
快楽に忙殺されているうちに
フランスは滅びた。
私はイングランド兵と
ベッドを共にしながら
豪奢なベッドの上で
雅な天蓋を見つめながら
微睡に堕ちていった。
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「あなた、本当に神の声を聞いたの?」
青龍偃月刀の錆となったはずの私の前に
地味な恰好の
バタくさい顔をした女が立っていた。
外国人。それも一人ではない。
私は西洋っぽい異国で
大勢の老若男女に取り囲まれていた。
全員、随分とボロい恰好をしている。
男は農作業用のシャツとズボンに革靴。
女は長いワンピースかエプロンに頭巾。
みんな似たり寄ったりで田舎臭い感じだ。
そしてなんと、私も周りの女達と同じような
長めのワンピースを身に纏っていた。
馬鹿な。
私に絵守のような趣味はないぞ。
といって絵守にそんな趣味が
あるかどうかは実際知らない。
知らないが、あの男のことだ。
絵のモデルが見つからずに
自分で女物の衣服を着て
鏡の前で色々着替えているうちに
「あら意外と似合うじゃない」
みたいな感じでそっちの道に目覚め
私と会っていた時分にも
ひょっとしたら下に
女性用のランジェリーを身に纏って
得々としていたのかもしれない。
なんて悍ましい男だ。
よし、元の世界に戻ったらきっと
生放送のテレビ前で奴の衣服を剥ぎ取り
その歪んだ性癖を白日の下に晒してやろう。
待ってろ絵守。
お前の出世も私が今生に戻るまでだ。
それまで束の間の栄華を
謳歌しているがいいさ。
くわつはつはつはつ。
なんて文学的な笑い声を
地の文であげている私は
まだ文学に未練があるのだろうか。
なんだか悲しくなってきた。
そもそも夢の中とはいえ
何でこう何度も死ななきゃならんのか。
馬鹿は死んでも治ってないし。
てことは何かい。
私の文学はまだ枯れてないってことかい。
じゃあ私は私の文学に
決着を着けに戻らなきゃならない。
そう、まだ私の人生は
ちゃんと終わっていない。
張り詰めていた思いが溢れ
涙が自然と頬を伝った。
「私は行かなければならない」
口からも、想いが溢れていた。
「またご神託か」
「正気で言ってるのか?
王太子の元へ行くとか
フランスを救うとか」
「でもお前まだ今年で十三だろう」
男達が嘲笑交じりに冷やかすのを遮って
井戸端会議のリーダー格っぽい
オバハン二人が私の弁護を買って出た。
「年なんか関係ないさ。
この子はね、村はずれの妖精の木に
毎日一人で祈ってるんだよ」
「そうさ。この娘ほど信仰心が厚けりゃ
神様もほっとかないだろうよ。
なあジャンヌ、今日も声を聞いたのかい?」
?
なんだ?一体この人達は
何を言っているんだ?声?嗚呼、声ね。
そりゃ毎日聞こえているよ。
あの塹壕戦の時もそうだった。
ん?塹壕戦?なにそれ?
なんかふっとリアルな光景が…
そういえば、元の世界で
希死念慮を誤魔化すために
Netflixでプライベート・ライアンを
つけっぱにしてた時があったっけ。
嗚呼そうか。
あの時も絵守の声が聞こえていた気がする。
これは大賞を狙えそうですぞ!
とかなんとか。嬉しそうにニヤついた顔で。
「声なら聞こえます。かつての友の声。
今の彼はサタンの手先です」
「かつての友?イングランドのことかい?
奴らが友なわけあるかね」
「でも元は同じ国みたいなもんだったろ」
何故か私の独白に共鳴して
井戸端会議が続いていく。
奇跡だ。私は奇跡を起こしている。
さながらオルレアンの乙女だ。
というか私はさっきジャンヌって
呼ばれてなかったか?
それになんだか体が怠い。
凄まじく怠い。
股から何か魂が抜けていく
ような感じがする。
意識が遠くなる。
そして私はそのまま路ばたに突っ伏した。
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気が付くと私は、掘立小屋の中にいた。
なんか長袍に身を包んだ
荒くれ者な感じの奴らが屯っている。
何処だ此処は?集会所?
桶狭間で善照寺は燃えた。
私は今川義元に討たれ炙られ
今川焼きになったんじゃなかったのか?
「兄者、いい加減に観念しねえか」
虎のような髭を生やした骨太マッチョが
怒ったような顔をしている。
その横には、長身マッチョが
ヴィダルサスーンみたいな感じで
二尺はありそうな
サラサラな黒髭を撫でている。
「そもそも兄者は漢の高祖
劉邦の末裔だとか言ってるけどさ。
それだけじゃもう限界だって」
「言うな張飛。
それがなくなったら兄者は
ただの四十七の草鞋編みのおっさんだ」
二尺髭が割って入る。
どうやら私はまた死 ねなかった。
というか元の世界にも戻れていない。
そしてさっきから兄者兄者って
私はこいつらの長兄なのか?
「その、じゃあ僕は君たちの兄として
何をしたらいいのかね?」
目の前に詰め寄る巨漢二人を前に
恐る恐る聞いてみた。
「だから言ってるじゃねえか。
荊州に未だ誰にも仕えず勉強ばっかしてる
臥竜って奴がいるから
スカウトに行こうって」
「臥竜?隠れた逸材的な?」
「優秀にも関わらず
未だ曹操にも孫権にも下っておらん。
これは我らの好機ですぞ」
二尺髭も虎髭と意見は同じらしい。
嗚呼、なるほどね。
今度は私、劉備玄徳ですか。
脳筋みたいな連中の集まりなわけだ。
だってこんな学も身分もない
フィジカルだけのおっさんのとこに
頭良い人材が集まるわけないもん。
こんなアウトローばっか集めて。
もう義賊っていうか山賊じゃん。
アウトレイジじゃん。
ファッキンジャップくらい
わかるよバ カヤロー。違う。
ここは今ファッキンチャイナだ。
玉無し野郎のせいで宮廷がメチャクチャだ。
いや、玉はあるのか。竿がないんだった。
竿がないのを馬鹿にされ
性欲あるのにヤれもせず。
そりゃ宦官も性格歪みますわな。
そもそも竿切り落とす時点で
生存率半々みたいな話だったけ。
でも十常侍のせいで乱世乱世。
黄巾の乱れより
睾丸の乱れの方が問題ですわな。
って私はさっきから何を言っているのか。
幸い私にはちゃんと玉が二つある。
実弾も二発ある。
この虎髭と二尺髭が
かの燕人張飛と美髭公関羽だろう。
ただこの二人も脳筋には変わりないわけで
じゃあ私はやっぱり臥竜こと諸葛亮孔明に
例の三顧の礼とやらをしなきゃならんのか。
やだなぁ。あいつ絶対性格悪いもん。
大体アラフィフの私が
二十代の小僧相手に頭下げに行くって
もう行く前からキツい。
でも脳筋だらけのこの空気はもっとキツい。
「乗るしかねえって。
このビッグウェイヴに」
「兄者。ご決心なされい」
張飛と関羽に半ば無理やり諭されて
私は隆中の山道を登る羽目になった。
何故か外来語を使った張飛が
ヴの発音の時にこれみよがしに
下唇を噛んでみせる感じが
なんか凄くしんどかった。
上り坂もしんどかった。
大男三人は道中無言であった。
道はそんくらい険しかった。
これを三回もやるのか。
いや、二度と御免なんですけど。
そう思っているとボロい庵が見えてきた。
「もし。臥竜の先生はおりますかな」
玄関口で声をあげて尋ねると
茶坊主みたいなのが出て来た。
「兄は留守です」
すんごい無礼な、素っ気ない態度で
茶坊主はそう抜かした。
「ほう、では君は諸葛亮の弟の諸葛均君かね」
「え?何故私の名前を?」
私は詐術に打って出ることにした。
こんなところに三回も来てたまるか。
「私には神通力がありましてね。
その者の本性を
一瞬で見破る力があるのですよ」
「マジか兄者。すげえ」
張飛が神を見るような目で私を見ている。
許せよ弟。今お前の兄は稀代の詐欺師だ。
「兄君がわざと留守を装って
私を試そうとしていることもお見通しです。
いや私も舐められたものだね。
こんなことは私のような
仙術使いにとって児戯に等しい。
さあ、諸葛亮を出しなさい」
「無理です。兄は帰りません」
「ほほう。
まだ私を謀ろうというのかい坊主。
そもそも私は諸葛亮が
竹藪の中に隠れているのを
ここに来る前に見かけているのですよ」
「え?本当か兄者」
「ええ。バレないと思って
ニヤニヤ笑いを浮かべていましたね。
実に不快な顔でした」
これは事実だった。
私は史実をしっていたので
竹藪を注視しながら進んできたのだ。
ビンゴだった。
殴りたくなるような含み笑いだった。
思い出したら何だかムカついてきた。
「しかし、何と言われようと
とにかく兄は留守です」
「ではその兄はいつ帰ってくるのかね?」
「わかりません」
「それもそう言えと兄に言われたのかね」
「はい」
「この指示待ち人間のド餓鬼が!」
私は茶坊主こと諸葛均を殴り飛ばした。
矮躯な諸葛均は
茶の間まで吹っ飛んで行った。
「兄者!子供相手に何をなさる!」
「そうだぜ!いくらなんでも大人気ねえや!」
髭兄弟が揃って非難の声をあげた。
「うるさい!
こんな自分のないガキが増え過ぎたせいで
我が日本はすっかり骨抜きの
イヌイヌのダメダメじゃないか!」
私は怒声を張り上げた。
諸葛均は茶の間で失禁したまま動かない。
「何をいってる兄者?
にっぽん?なんだそれ?
あんた気狂いになっちまったのか?」
張飛がドン引きしている。
関羽は茶の間に上がり
諸葛均の体を検めた。
「…兄者。小僧は死んでおりますぞ」
関羽がドン引きしながら言った。
私は絶句した。
やめろ。そんな目で見るな。
私は最近の若者の
根性を叩き直してやろうと正義の鉄槌を…。
帰り道。皆、無言であった。
途中の竹藪の間から
諸葛亮が嗚咽して臥せっているのが見えた。
誰も何も言わなかった。
そして軍師を欠いてグダグダなまま
博望坡の戦いが始まった。
兄弟二人は目も合わせてくれなかった。
私はヤケクソになって
総大将の夏侯惇へ向かって単騎駆けした。
その途上、横合いから馬の嘶きが聞こえた。
次の瞬間、目の端に、
白刃が一閃するのを見た。
私は気付けば低い地べたから
倒れ伏した己の首なし胴体を見ていた。
「その手で幼きを虐る外道。
もはや、我が主にあらず」
大刀が、鈍い光を放ちながら
鮮血に曇っている。
「桃園の誓い、ここに潰えたり」
関羽は青龍偃月刀を振った。
赤が弧を描いて土に散った。
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「殿。ご決断を」
目を覚ますと
暗い顔をした軽装の武士みたいな奴らが
私を取り囲んでいた。
「え?何?」
「今川軍の攻勢を待っては滅びを待つばかり。
ここが先途。
明日の明朝、最期の名誉のためにご出陣を」
猿のような顔をした小男が
物凄い剣幕で詰め寄ってくる。
これは何ですか。あれですか。
流行りの異世界転生ってやつですか。
私の脳髄はいつの間に
読んでもいないラノベの類に
侵されていたんだ。
いや、広告の力とは恐ろしい。
人の今際の際にまでこうやって
ズカズカ踏み込んでくるんだから。
つまり私は今、今際の際に夢を見ている
ということか。
するってぇと何かい。
状況から察するに、この私は今
桶狭間前夜の信長ってところかい。
一日署長ならぬ一日信長。
それにしても、よりによって
とんでもない一日を選んでくれたもんだ。
神よ。そんなに私のことが嫌いなのかい。
嗚呼そうかい。
「念の為に、城の周りを見回って参ります」
猿が最期の大仕事
のような勢いで飛び出そうとする。
「あ~、いいよいいよ。
こんな夜分に斥候に出ちゃ落馬しちゃうよ。
てかさ、今川義元との戦力差舐めてる?
舐めてますよね?
こんな尾張の守護代の守護代が
どうにかなる相手じゃないでしょう。
最期くらい笑って散りましょう。
何が名誉の突撃ですか。
そんな何の益体もないことより
今宵は宴じゃ。最期の無礼講の大饗宴じゃ。
とにかく酒もってこい酒」
私はヤタケタだった。
転生しても鬱はどうにもなっていなかった。
今から戦?冗談じゃない。
おそらくこの猿めは羽柴秀吉だろうが
今こいつを外に出すと
今川軍が目と鼻の先で酒宴を開いてるのを
なんか凄い士気上げる感じのテンションで
報告してきてくるに違いない。
そうなったら確実に
めんどい戦をする羽目になる。
こんな雷雨の中をよ。
無理無理。
あの壁んとこに飾ってある甲冑とか
めちゃくちゃ重いに決まってんじゃん。
ここはあれだ。一発、敦盛かましとくか。
「人間五十年、下天のうちをくらぶれば
夢幻のごとくなり。
…っていうのはさ。
人の命なんてマジ一瞬なわけじゃん。
でもね、僕なんかはその一瞬を
最期まで愉しみたいって、そう思うわけ。
今を楽しめない輩は
天国なんて行けやしませんよ。
結局、浮世なんてのは
僅かな時間の中で
どれだけ欲望を満たせるかが
勝負だと思うの。
何?武士道?馬鹿言っちゃいけねえや。
それこそ己の本懐に背くことですよ。
ゆとりさとり世代に笑われますよ。
誰が好んで死に急ぎたい奴がありますか。
え?煩悩?はは。
大いに結構じゃないですか。
煩悩煩悩。ぼかぁ煩悩を全うするために
生まれてきたのかもしれないなぁ」
今日は朝まで飲むぞ。
私は権威で以て
一歩も譲らず馬鹿を押し通した。
家臣たちは青い顔をしながらも
それに追随するしかなかった。
葬式みたいなヤな感じの宴になった。
酒を注ぐ音が
閑寂の和風広間に寒いくらい侘しく響いた。
「最期の無礼講なんだから盛り上がっていこうぜ」。
私の酒宴激励も半ば無視
みたいな空気だった。
肴には誰も口をつけなかった。
みんなの視線が痛かった。
最悪な酒宴だった。
痛みそのもののような酒宴だった。
今頃、今川軍は
大層盛り上がっているだろうに。
こちらの宵は酔いも回らず
空を覆う闇夜が永遠のように感じられた。
致し方ない。とにかく今、何もしたくない。
そのためならば、私はどんな暗君にもなろう
なったろうやないかい。
男には、何が何でも
やらなきゃなんねえ時があるんだ。
そして翌日。織田家は普通に滅びた。
そりゃもう圧倒的に滅びた。
今川軍は馬鹿みたいな強さで
なんかもう笑った。
降り注ぐ矢の雨の中
私は本丸にちらかった酒瓶に蹴躓き
勢いその先の
土鍋に頭を突っ込んで気絶した。
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?アカリ?
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投稿日時

(お題:異世界転生・歴史探訪
嘘つき同士の友情・最期の晩餐
希望と空虚・臆病者・快楽に溺れる
据え膳食わぬは男の恥
正解と正しいは違う・推し活沼)
――裏切りによって救われ
救いによって裏切られた。
?
引き籠りを始めてから五年が経った。
実家暮らしではない。
生活保護の一人暮らし。
小説が全く書けなくなった私は
どの出版社からも見放され
いつからか絵守も訪ねてこなくなった。
絵守はもはや大御所画家だ。
今の絵守にかかれば
庭先でバーベキューしながら
肉汁に塗れたナプキンに
左手で描いたウナギイヌだって
数万ドルは下らない。
なんならAIに描かせてサイン入れるだけで
飛ぶように売れる。
というか絵守はだいぶ前から
そういうことをやっている。
もはや絵描きというかただの署名人だ。
著名人の署名人だ。
芸術家としては廃人である。
呆れて怒りすら湧いてこない。
?
いや、怒りが枯れたのか。
かつて絵守は
スランプで項垂れている私の姿を
勝手に模写し、その絵が何故か
国際的に評価され
世界にその名を知らしめた。
しかもタイトルは私の実名だった。
コケにされた私は絵守をぶん殴った。
絵守はヤメ検の弁護士団を雇って
容赦なく私を裁いた。
金のない私の国選弁護士は
全く使い物にならず
私は執行猶予なしの傷害罪で
コテンパンに起訴され
嘘のようなスムーズな流れで
刑務所に収監された。
そして2年間。
塀の中の煉獄を私は何とか生き延びた。
しかし外の世界に戻ってみると
絵守の絵は尾鰭がついて
評価され続けていた。
私の事件が絵画に纏わるスキャンダルとして
これに更なる付加価値を
与えてしまっていたのだ。
「筆山文彦」。
私の実名は絵画と共に悪い意味で
世間に注目されるようになっていた。
そんな私が、新しく小説を書いたら
話題になるだろうか。
冗談じゃない。
何が悲しくてやっと娑婆に戻ってきてまで
事情も解せぬ有象無象に
コケにされなきゃならんのだ。
じゃあ名前を変えたらどうか。論外だ。
そんなことをすれば絵守に男として
心まで完全敗北したことになる。
?
それから私は、小説が書けなくなった。
今じゃ絵守のせいだと気焔をあげて
奴を殴りに行く気力もない。
愉快な反社の仲間たちと
寝食を共にする体験は一回で懲り懲りだ。
そういえば二八番君は元気してるだろうか。
彼とは同じ正業の者同士
随分と支え合ったものだ。
なんだか段々、不良のお歴々の方々の
武勇伝や案件話に傾聴して
乗り気になっていたから
こりゃ出獄後は向こう側の人に
なってそうだなと思ったものだが。
今も元気にダシコをやっているのだろうか。
辞めときゃいいのに。
頑張って広告業界に戻ればいいじゃないか。
まだ若いんだし。
嵌めた相手にお礼を返す
みたいなこと言ってたけどさ。
でもそれも若気の至りなのか。
よし、若いうちにしか
できないならやればいい。
私にできるのは、その若さの代償が
浦島太郎の玉手箱にならぬよう
祈ることくらいだ。
?
なんてことを私が
言えた義理ではないのだが。
何しろ私は、五年前から
国民の皆さまの血税で
何もせずただ日々を
無駄に削っているだけの生ける屍だ。
だからといって
無駄遣いなどしているわけでもない。
生かさず殺さず徳川幕府。
参勤交代路銀で衰退。
どころか私ときたら散歩すらしない。
兎角、何もやる気が出ない。
ゲーム廃人になる気も起こらない。
ただただ苦しみを胸に
毎日天井の染みを数えるだけの生活。
こんな引きこもりが他にいるだろうか。
これって割と常人にとっては
苦行なんじゃないだろうか。
ブッダの修行くらい
キツいんじゃないだろうか。
だったらなんで、いつまで経っても
私に解脱の救済が訪れないんだろうか。
嗚呼、楽になりたい。
何もしてないのに苦しい。
というか、この世に
何もしないことほど苦しいことなんてない。
それは、こと私の場合に
特に顕著なだけかもしれないが。
世間から這い放たれた
人間に圧し掛かる重圧。
社会性から切り離された予期不安。
内から己を責め立てる呵責。
己がこれほど引き籠りに
向いていないとは思わなかった。
引きこもりなんて
落伍者の極楽暮らしじゃないか
と羨んですらいた。
?
違う。
怠けるにも才能というものが要るのだ。
そして己はこれの才能に全く恵まれず
ひたすら苦渋に苛まれ続けている。
しかしもはや手遅れ。
最初の一年くらいで
乾坤一擲の一念発起をしていれば
まだ望みはあったかもしれない。
が、五年という月日は
私から生きる気力そのものを
恐怖というネガティヴに返還し続ける。
毎日、益体もない
希死念慮ばかりを膨らませ続ける。
だったら死 ねばいいじゃないか
という話だが
人間には生存本能というものがある。
やはり肉体的に苦しいことは
体がこれを極力拒否するように
出来ているのだ。
漫画やドラマのように
インスタントには逝かない。
そんな理屈を捏ねずに
この雑居ビルの屋上から
あいきゃんふらいすればいいものを
そんな理屈を殺せずに
何もない生に縋り付いて
ここまで生きてしまった。
?
ここ五年
コンビニの店員とすら話していない。
もはや時代はセルフレジ。
人類はついに
金を払う時すら他人を必要としなくなった。
「こんにちは」「袋ご利用ですか」
「ありがとうございます」
言葉が文字に置き換わり
市井からコミュニケーションが剥奪され
都会には社会復帰の
ささやかなトレーニング場すらない。
職安もそのうち
ペッパー君だらけになるだろう。
警察はペッパー警部になり
和人はこぞってアメリカ・インディアナ州の
ペッパータウン集落に集まり
祖国日本に見切りを付けて新国家を樹立。
国歌はレッド・ホット・チリ・ペッパーズの
カリフォルニケイションだろう。
何がカリフォルニアだ。
ブルジョワの堕落め。
そんなところに移住するくらいなら
私はスリランカで菩提樹に塗れて
浄化されたタタリ神みたいに
クニャクニャになってしまいたい。
?
しかしもはや進退窮まっている。
この生活を何とか
楽にする方法はないだろうかと
私は通販で般若心経を購入した。
そしてこれを一日中唱えた。
十万回くらい唱え続けた。
何も起こらなかった。
ヤケになって食生活を
三食カップ麺にしてみた。
非常に苦行である。
もう二日目で胃がムカムカする。
そこで般若心経だ。
色即是空。空即是色。
この世界は俺がみている幻想なんだ。
本当の俺は実はもっと違うところで
溌剌として生きているに違いない。
じゃあこの惨憺たる現実は俺の夢か。
夢なのか。なんだ夢だったのか。
早く言ってくれよ。
そんで早くうぇいくあっぷぷりーず。
いつの間にか掻きこみ過ぎた麺が
気管に詰まり、私は鼻から
豚骨を噴出させながら仰向けに倒れていた。
嗚呼、このまま窒息やら血糖値関係やらで
楽になれないかな。
目の前には相変わらず
天井の染みが広がっていた。
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?アカリ?
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