
「ナイスバッティングーッ!!」
真っ白なユニフォームに、汗で張りついたチア衣装。太陽が照りつける中、私は全力でポンポンを振っていた。
三塁側のスタンドは、応援団と私たちチアでぎゅうぎゅう。だけどそんな暑さも、彼の打席を見ているときだけは忘れられる。
9回裏、逆転タイムリーを決めたのは…もちろん、エースで4番の彼。
試合が終わって、みんながグラウンドに飛び出す中、私は人混みの後ろからそっと彼を見つめた。眩しいくらいの笑顔で、仲間に抱きつかれている彼。でも、その視線が一瞬だけ、私に向いた気がした。
──試合のあと。
校舎裏の、人気のない給水所。制服に着替えようと移動していた私を、後ろから声が止めた。
「…応援、ありがとな」
振り返ると、まだ汗を拭ききってない彼。ユニフォームのままで、息が少しだけ荒い。
「すっごくかっこよかったよ。逆転打…ほんとに鳥肌立った…!」
「お前の声、めっちゃ聞こえてた。…気合い入った」
そう言って彼が一歩近づいた瞬間、汗のにおいと、太陽の匂いが混ざって、心臓がドクンと鳴った。
次の瞬間、壁に手をつかれて、私は軽く押し込まれるように背中を当てられた。
「お礼…ちゃんとさせて?」
囁かれた声は、さっきまでのグラウンドとは違う、熱を帯びた声。
制服のリボンに指先が触れて、私は思わず肩をすくめた。
「こんなとこ…誰か来ちゃうよ…」
「来る前に終わらせる。…俺、ずっと我慢してたんだ」
冷たい壁に押し当てられた背中と、汗ばむ彼の手のひらの熱に、私は目を閉じるしかなかった。
彼の手が、私の腰をゆっくり引き寄せた──
それは、真夏の試合の余韻よりも熱くて、だけど一瞬のような出来事。
あとで着替え室に戻ったとき、鏡に映った自分の首筋に、小さな跡が残っていたのは、ナイショの話。