お店の電話番号をコピー
投稿日時

Nさまへ
今日はありがとうございました。
楽しいを通り越して、どこか別の世界に迷い込んでしまったかのような心地のまま、今に至ります。
あの一連の出来事が夢じゃなかったことを確かめるように、先ほどいただいたアインシュタインの本をめくっています。
「一番好きな本は何?」
とてもシンプルで、ありふれた問いです。
けれど、その答えを用意することは私にとって人生最大の難問かもしれません。
読んできた本が、好きな本が、あまりに多すぎるのです。
その時の気分によって「一番」の座は蜃気楼のように移ろいます。
ユクスキュルの「生物から見た世界」?、志賀直哉の「暗夜行路」?、鈴木健の「なめらかな社会とその敵」?…どれも間違いではないけれど、どこかしっくりこない。
けれど……実はあの時、一冊の本が頭にぼんやりと浮かんでいました。
浮かんでいたのに、答えられませんでした。
それは、私が中⚫︎生の頃に夢中になっていたSF小説です。
夏休みで暇を持て余していた私に、母親が「これでも読みなさい」と、本棚から抜き取ったボロボロの文庫本。
それが、筒井康隆の『幻想の未来』でした。
グロテスクでバイオレンスなスタートでしたが、読み進めるうちにその面白さにすっかりハマり、表題作以外の短編作品にも熱狂し、夏休みが明けてすぐ、当時一番仲の良かった親友(読書の鉄人でした)に「読んで!」と半ば押し付けるように貸したことがあります。
ところが、彼女は数ページ読んだところで見たこともないような怒りの形相になり、
「無理、気持ち悪い!酷いよ、こんなの!」
と、本を私に突き返してきました。
その言葉には、「よくも騙しやがったな!」の意が込められていました。
良かれと思ってしたことなのに、大好きな友達を怒らせてしまった……
その記憶が根深いトラウマとなり、私は自分が好きな本を誰かに勧めることを恐れるようになってしまったのかもしれません。
ですが、今回の問いかけをなにかのチャンスだと思って、めげずにもう一度立ち上がりお気に入りの一冊を探す旅に出てみようと思います。
……
放哉の句集、私のものは付箋だらけになっています。なので横から見ると少し膨らんでいます。
Nさんの心に響くものが一句でもあったなら嬉しいのですが…
宝探しのように楽しんでいだけたら何よりです。
私はこれを10年ほど前に手に入れましたが、今でも眠る前によく開きます。
放哉の句を読む時は音楽もラジオも全部消して、耳元に風や雨だれの音を迎えます。
彼のおかげで、私は雨の日が好きなのだと気づけました。風に揺れる木々の葉が地面に映す影をよく見るようになりました。あらゆるものが醸す美しさや儚さを知りました。
静かで、孤独で、何もない場所にこそ浮かび上がってくる、日常の中の愛おしさ。
これも決して万人受けはしないでしょう。
けれど、あの時、Nさんとの会話の中に何か自分と通じるものを感じました。
あなたの心の杭には、どんなものが引っかかるのでしょうか。
知りたいです。
投稿日時

トップ