
実家に帰ると、なんだかホッとします。
台所から漂ってくる味噌汁の匂い、干してある洗濯物の匂い、ちょっと古びた家具たち。わたしが生まれ育ったあの家は、いつだって変わらずに「おかえり」と優しく迎えてくれます。
何気ない会話、テレビの音、母が立てる包丁のトントンという音。
けれど、そんな“変わらない風景”のなかに、ふとした瞬間、ゆっくりと進む「変化」を感じることがあります。
たとえば、父の耳が少し遠くなっていたり母の髪に白いものが混じっていたり食後のテーブルに並ぶ薬の種類が増えていたり。
そういう小さな変化に気づくたび、胸の奥が少しきゅっとなります。
子どもの頃は考えもしなかったけれど、わたしの大切な家族は、いつまでも元気でいるわけじゃない。「ずっとある」と思っていた日常には、終わりがあるんだってことを、大人になるにつれて痛感するようになりました。
歳を重ねて、わたしも家族も、それぞれ違う人生を歩んでいる。離れて暮らす今、日々の忙しさに追われると、連絡すら後回しになってしまうこともあります。
だけど、実家に帰ると気づかされます。
笑いながら食卓を囲むこと夕食後にのんびりテレビを見ること「おやすみ」と言って眠ること。
それがどれほど愛おしい時間だったのか。
特別な観光地に出かけたり、美味しいごはんを食べに行ったりすることも、もちろん素敵な思い出になります。でも、それと同じくらい、なんてことのない日常の中にも、温かな記憶がたくさん詰まっているんだと改めて感じました。
たとえば、母と一緒にスーパーに行って「今日は何食べたい?」って聞かれること夜に父がこっそりアイスを出してくれて、二人で黙って食べること
そんな日常こそ、いずれは「もう戻らない時間」になってしまう。
だからこそ、今この瞬間を大切にしたいと思います。
変わっていくことに寂しさを感じながらも変わらない愛情に支えられて、また明日からわたしも頑張ろうと思えます。